コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

非連続性3-4

「聞き込みは明日からということですね」決まって聞き込みの時間帯を日中に据える熊田の捜査に基づいた意見を言ったつもりである。

「聞き込みのエリアがまだ決まらない」鈴木が雨の降り出しを確かめる仕草。「熊田さんのゴーサインが出ないんだ」

「バス停付近と降車駅、残るは会社。他にどこを探すのです?」箸を持つ手は右手といわんばかりの種田の言い方に、対面の相田と鈴木はぐっと言葉を飲み込む。隣の熊田は深く腰を吸えて腕を高い位置で組んだまま目を閉じている。これが熊田が考えている時の格好。だとすれば、ここまでの出来事で腑に落ちない箇所があるのだ、またしても種田は不審な点を見逃していたらしい。事件を脳内で辿る。……やはり、考え込むまでには至らない。回転数では自分の方が勝っていると種田は自負している。記憶力も勝っているだろう。しかし、事件の取っ掛かりを掴むのは熊田や喫茶店の日井田美弥都という人物。私に見えていない角度。跳ねた心臓の影響かもしれない。

 種田は考え方を変え、事象に取り組むアプローチそのものを変更。熊田の隣で種田も黙りこくった。

「異様な光景ですね」鈴木は聞こえるほどの音量でつぶやいた。

「いつものことだろう」相田のそっけない返答。

 しばらく時間が過ぎた頃に熊田がおもむろに口を開いた。種田は声に応じて目をひらく。

「樫本白瀬が乗り降りしていたバス停と最終電車の時刻にT駅で聞き込みを開始する。バス停は私と種田、T駅は鈴木と相田のペアだ。異論は受け付けない」

「行きますかあ、相田さん」

「まだ、早いよ。終電まで何時間あると思ってる。気長に過ごせ」

「そうですね」

 そういったわけで、熊田と種田は午後十時前に、鈴木と相田はその数分後に張り込み場所へ移動した。

 翌日の天気は上空に張り出す寒気が過ぎ、プラスの気温を迎える、ラジオが淡白な正しいとされる音声で伝えた。車内で寒さを感じるはずの足元も長時間のエアコン稼動によって暖かい。車は昼間の騒々しさとは打って変わり、静けさに気温上昇によって路面に凹凸が作り出されたため、走行車のヘッドライトが明滅を繰り返しているように見えるし、窓から素手を出していても風がピタリと止まっていて、手袋なしでも平静でいられる環境下である。

 熊田も車を降りてエンジンを切った。暖気がなくても、車内はかなり暖かい。積雪と細長い葦のよう薄茶色の植物の奥にバス停を見据える。臨港沿いの通りを山側に入った薄暗い道に二人は身を潜め、観察していた。