「今日は休館日では?」
「黙っていてもらえますか、正直に話すので」
「話を伺って判断します」
「はあ、そうですよね。いや、文句を言ってません。図書館の司書が友達の親戚なんです、顔見知りだから無理を言って、入れてもらったんです。本の整理を知り合いの司書がするだけだから、邪魔にならない場所でなら、入れてあげもいいって。母親には黙って図書館に来ました」勉強に打ち込むことを隠す?種田は腑に落ちない、首をかしげる。
「差し支えなければ、黙っていた理由を聞かせて」
「家では勉強に集中できません、弟が生まればかりで母は気が立っています。何かにつけて怒る対象を見つけては、ストレスを発散している。だから、学校の行事だといって抜け出してきたんです」
「冬休み」種田は学生の先を促すための言葉を言う。
「学校というワードを持ち出せば、言い返したりしない。教育一家ですからうちは」
「この人を見かけたことはない?」種田は樫本白瀬の写真を彼女に見せた。バスが揺れて、学生の目は写真を左右上下に追う。
「いいえ、たぶん知りません」
「そう」
「さっきのお願いですけど……」
「あなたの品行方正を正そうとは思っていない。警察であっても、目的以外の対象をそう容易く取り締まらない」
「よかった」
「商業施設が建つのは知っていますか?」前方、降り口の料金表を眺めて種田はきいた。
「二の前を踏むのは目に見えているのに、どうして臨港に建てたがるのか」
「以前にそういった計画が持ち上がったのですか?」
「一度や二度ではありません。商業施設だけでも軽く三回は超えている。その他にはマンションだったり企業のバックアップ施設だったり、数えたらキリが無い」学生は饒舌に話した。
「それらの建物が完成しなかった理由はなんでしょうか」
「事故」学生は得意げに指を立てた。「自殺、暴行事件、拉致監禁、過去には洪水の被害も受けたと思います」
「祟りという迷信をここ数年は信じていた」種田は息を吐くと同時に浮かんだワードを音声に変えた。女子学生が機敏に種田の言葉に感度を上げる。