「絶対に地中に何かが埋まっていますよ!」声が大きい。興奮し腰もわずかに上がっている。「その昔、蝦夷地と呼ばれた時代から、鰊漁で栄えた海を敬う時代までは災害の記録は残っていません。ああ、あの私そういったオカルトに興味があって、その時代の反映、象徴する魚と海の恩恵を祭る碑石や神社がかつて、具体的には六十年ほどまえには残されていたのです。これで安全が保たれていたのに、港湾の干拓と区画整備の進行で、海岸線を傾斜がまったくない平ら土地に造成させてしまい、そこへ建造物を造ろうとした工事着手にて災いが起き始めた」
「図書館へ通うのは地元の資料を調べるため」種田は、学生の行動を反芻、納得した。
「もちろん勉強もしてます。調べるのは勉強の合間、休憩時間にです」人はよく休憩を欲しがるが、この学生のように対象を変えるだけでも集中は途切れずに持続されるのだ。
バスが停留所を通過。次がT駅である。
「これが最後の質問。この時間帯にこのバスを利用している人、あるいは利用しそうな人はどういった人でしょうか?」
学生は深く瞬く。「まずこのバスの存在、誰も知らないと思います。目的地が公民館でも遅い時間帯にこのあたりを歩いている人はいません」
到着。雪面の凹凸を伝えて、バスが停車した。
礼儀正しいお辞儀を繰り返し、学生は線路沿いへ歩いていった。種田はロータリー、終電前の駅に吸い込まれ、駆け足の人をよけて熊田の車を見つけて乗り込んだ。
「なにか掴めたか?」
「祟りというワードが出現しました」
「迷信だろう?」
「開発を食い止めるために自ら死を選んだとも解釈できます」種田は熊田に言う。「どうぞ吸って下さい、タバコ」
「いいのか?」
「私の車ではありませんので」
「どうも」熊田はタバコに火をつけた。「調べものか?」
種田は女子学生が話した内容の裏を取る。足を運ばなくても情報は受け取れる時代。書かれた史実の信憑性は書籍に比べてかなり低いが、情報更新の早さと取得の利はおおまかに対象外形の把握に長じる。画面の右上部に表示された時刻はまもなく最終が出る十一時四十五分、鈴木たちは乗車に忙しい乗客に話を聞けるのだろうか。
熊田のタバコが消えて、数分。一度、タクシーの運転手が車の移動を促しに窓をノックしたが、熊田は警察手帳を提示、数十分で移動するとやんわり伝えていた。