コンテナガレージ

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非連続性4-5

「一応、鑑定は済みましたよ」彼女は席に着いて体を椅子の力に任せ回転、神に体を向ける。「遺体の指紋と毛髪が検出されました、指紋は他に二種類、一つは山遂セナ、ガイドブックを届けた人物で、もう一つは黒河、バスの運転手のものでした。ただ難点があります、遺失物か遺留品かの判断は難しいんです。第三者が持ってきた物だって聞きましたし、あらかじめ指紋をつけ、毛髪を入手すれば遺留品として扱われますから」彼女の推理に部長は関心を寄せた。鑑識の人間はあまりというか、ほぼ捜査に登場する人の心理について関心のなさをあからさまに露呈させるタイプが多い。検出結果と事実とを結ぶ役割を自分たちに見出さない明確な領域感覚を持っているともいえるだろう。しかし、鑑識の彼女は意見を混ぜた発言を述べた。私が遭遇していないだけで、こういったやり取りは日常的な光景かもしれない、部長は新たな要素を懐に抱えた。

「遺留品として倉庫に眠るのが妥当だろうな」

「忘れ主は現れようにも保管しているのが警察署とは思いつかないでしょう」肘をさする女性が思い出したように言葉を続けた。「数ヶ月前に印刷不備の書籍を携えた死体が見つかった時と似ていますね」

 立ったままの部長は二人の会話に耳を傾ける。

「そういえば一ヶ月ぐらい前にそんなガイドブックを調べたなぁ」

「Z町の特集記事、他の町の情報は一切掲載されない、無駄に白紙のページで厚みを出したやつですよね」

「それはどこにありますか?」部長は詳細を尋ねた。多少、口調が早まり、興味がにじみ出た。

「地下の保管庫。何だ、あんた見たいのか?」

「遺体の鑑定結果が見られなくても、関係性が疑われる類似のガイドブックからなら情報がつかめるかもしれません。見せてもらえませんか?」部長は哀願動物の眼差しで差し入れの品と神を交互に見つめる。

 折れた、彼は神の表情で悟る。確信。

 度忘れの単語を思い出すような表情、神が頭をかいて女性に指示を出した「警備から鍵を借りてきてくれ」

「私がですか?」今戻ってきたばかり、という彼女の眉間の皺は上司や目上の人間に向けた態度には思えず、むしろ同性や同年代、主に職場以外の場所で散見される聞き返しに映った。

 それでも女性は不満をたぎらせつつ、カードキーを持って戻り部長にそれを手渡した。もう梃子でも動かない、そういった気配を周囲にばら撒き、ぱちぱちとキーボードを打ち始める。

 神にお礼を告げた部長は温度差の少なさを体感した廊下を玄関口のホールまで戻り、上階へ続くくすんだクリーム色の幅広の階段へ何気なく目をやり、薄暗く昼間でも明かりが必要な階下への階段を下りた。