コンテナガレージ

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非連続性5-1

 剥き出しのアスファルト、暖冬のまま年が明け、一週間弱の時間が過ぎた。新年の浮かれた雰囲気も徐々に引きつつある。警察の訪問は暇な時間帯を狙い打つのだから、暇である私は当然であるのか。昼頃に差し込んだ窓の日をぼんやり眺めて、踵に体重を乗せ、力を抜いた状態を維持した。常連客がカウンターに一人、読書中。お客はその人物のみ。大学はまだまだ冬休みの真っ只中である。

 ベルが鳴ってお客が来店した。二人は迷わずカウンターを選び、コートを着たまま着席した。刑事である。

「店長さんは?」熊田が唐突に尋ねる。常連客がわずかにこちらに関心寄せる気配を放った。会話がBGMに変わるまでの辛抱。

「見ての通り、席をはずしています。伝言があれば受けますが」

「日井田さんに途中だった事件の続きを聞いていただきたくて」熊田のとなりの女性刑事はにわかには信じがたい態度でこちらを捉える。威嚇は己の所在を知らせることを彼女は知っているはずなのに、捨て身の覚悟か。

「続きを要望した覚えはありません。ご注文は?」

「コーヒーを二つ」

「かしこまりました」

 めずらしく作業中は声がかからなかった。クラシックというジャンルでくくられる音楽が流れる。稚拙な口語表現の羅列に感情をのせるポップスと比べ、曲の主張を読み取る、引き出す、かもし出す訓練にクラシックの音は聞いているだけでも音楽を嗜む人物にはいい練習になるだろう。言葉よりもその起源となる原石の感情をクラシックは表現の核に据えている。だから、音が廃れない。

「亡くなった女性、樫本白瀬は数年間おきに海外へ短期の移住を果たしています」熊田はコーヒーをわずか口に含んですぐにカップを置く、事件の続きを美弥都に伝えた。

「身元を証明する所持品を携帯してはいなかった、前回はそうおっしゃっていました」

「忘れ物を届けた人物はI市の巨大商業施設建設を請け負う建設会社の担当者で、樫本は施設の最終選考のコンペで落選したデザイン事務所の社員でした」

「二人は顔見知りではなかった」一人ごとのように美弥都は言う、他人事に昇華させ、物事の把握に努める。個人名や名称を覚える必要性はなく、それらの関係性に特化させる。

「ええ。山遂セナ、ああ、忘れ物を届けた建設会社の社員は、見たことはなかったようです」

「亡くなった方は知っていたかもしれない、だから同じバスに乗っていた」