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非連続性5-2

 熊田は軽くうなずく。「ただし、樫本白瀬が山遂セナが持ち歩く資料を盗み見たかどうかははっきり解明されていない。他の媒体を通じて収集した情報を元にガイドブックを完成させたのかもしれません」

「話が見えません。ガイドブックに山遂セナの所属会社が請け負う施設の建築デザインが描かれていた、ということですか?」

「お伝えしていませんでしたね、ガイドブックにはまだ構想段階のアイディアと酷似した想像図が描かれていたようです」

「なぜ、カシモトシラセという人物が他社の資料を見るのでしょうか?」

「盗んだデザインが先に公の場に触れれば、建設会社はデザインの変更を余儀なくされる」

「そういう意味ですか。彼女は海外へ渡航されていたのですね」

「留学ビザを利用した語学研修という名目です」

「会社勤めの傍ら長期間の留学、ずいぶんと社員に寛容な企業」

「世界展開を視野に入れた会社の方針に彼女が立候補し、海外で経験を積み、それらを会社に還元していたのです。が、どうにも腑に落ちない点があります。語学留学のみの渡航に二度、三度の経験を積ませる機会を与えるでしょうか?」

「と、おっしゃいますと?」美弥都は相手に話させることを心がける。

「一連の不可解な事件を操る組織と海外で接触していた」熊田のトーンがわずかに落とされる。彼は話の展開を経験によって学んだらしい、その証拠に彼は、抑揚をかすかに使用した。文章による落差が計算された展開ではない。

「あくまで可能性や予測、予想です。それなら日本でも、もしその組織という存在が認められるなら接触できないことが論理に反する。事件は日本で発生した。それとも海外での記録があるのかしら」

「酷似の事件はいくつか報告を受けています」

「話が逸れましたね」美弥都は手のひらを返す。「事件に戻してください」

「ガイドブックの類似した物が発見されました」熊田はこちらの反応を窺う、驚きを予測したのだろう。

「それで?」すかさず美弥は発言の着地を求めた。

「O市Z町の未来図、新たな建造物を載せたガイドブックを地図に反映させた。これは一体、どう考えるべきでしょうか?」熊田は試している。明らかに内部には確証はないが、目星をつけた可能性と意見を保持している。それらを見せないのは、表に出してはならない類の直感に限りなく近い感覚。