窮屈な車内。定員一杯、高い乗車率の車は深夜を迎え、冷え冷えとしたなまめかしい氷の膜を張る国道をひた走る。T駅を出て、三十分弱で急速に車はスピードを落とした。
住宅地とビルのどちらにも生活圏を譲らない地区にO署の刑事たちは降り立つ。車内で鈴木と相田は眠気をこらえられずに、意識を失っては瞼を開く作業を行っていた。助手席の種田は相変わらずクールな面持ちに微動だにしない体勢で凍った窓から景色を眺めていた。
通り過ぎた五メートルほど後方、銭湯の明かりが消えると当たりは急に闇が勢力を広げる。
「代議士とか地方の有力者が住む家みたい」鈴木は門構えに正対し、呆然と立ち尽くした。越えられそうもない白壁が年代の古さを思わせる、北国ではめったに出会わない様式。
「クリエイティブ×クリエイションのサイトによると、I市の海岸沿いに建てられた建造物を移築し、さらに現代風に造り変えたと記載さています」種田は無表情で口だけを器用に動かした。
「全員、帰ったと思いますけどね」相田は浅い眠りだったのか、しきりに目をこする。「鈴木、お前が聞いて来い」
「何でいっつもこういう役目は僕に回ってくるのかな」鈴木はぼやきつつも、インターホンを押した。
スピーカーがガサゴソ、マイクを通じた特有の雑な響き、強張った女性の声である。
「はい、なにか」カメラの映像を見ていったのだろう、深夜に四人もの人間が訪問、インターホンを押すのだから、警戒心は強まる。鈴木は身分を名乗るとの同時に警察手帳を見せた。
「少しお話を窺いたいのですが?」
「社長はこちらにおられません、先ほど帰られました」
「あなたはこちらのええっつと……」鈴木は種田を振り返る。
種田が間髪入れずに助け舟を出す。「クリエイティブ×クリエイション」
「クリエイティブ×クリエイションの社員ですか?」
「はい、そうです。あのもしかして樫本ちゃんのことでしょうか、警察の方がいらしたのは?」彼女の口ぶりから推測するに、樫本白瀬の死亡原因はまだ伝わっていないのだろう。つまり、事件性とは無縁、病死や不慮の事故などと聞いているのか。いいや、新聞には死体で見つかったという曖昧な記事が載っただけ。彼女の落ち着きようは場の雰囲気、状況とずれている。
「そうです。あなたのほかにどなたか会社の方がいれば、お話を伺いたいのですが」