コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

回帰性1-2

「……どうぞ中へ、石畳は滑りますので足元には十分ご注意を」

「そっけない感じでしたね」鈴木が振り返って肩をすくめた、思っていた反応と異なったらしい。「会社勤めなら社員が亡くなると総出で葬式とお通夜を取り仕切るイメージがあるのですが、なんだかドライ。そういうのって流行らないんでしょうか」

「さあなあ」相田が自動で開いた門扉を通る際に注目の眼差しを左右に送って先頭を歩いた。次に鈴木、種田、最後に熊田が敷地内、石畳の上に積もる氷に足をとられつつも、石に導かれ、こましゃくった木製の玄関に行き着く。

 出迎えた女性が軽く会釈、インターホンで話した声で中へ案内をした。

 間仕切りのないオフィス中央に引かれたラグマットに向かい合わせの応接セット、ローテーブルを挟んで一人がけの椅子が二脚、澄ましたように配置されている。事務所内は、過ごしやすく快適な温度が冷えた頬を暖めた。

 案内の女性は端末を耳にあて話しているが、会話までは聞こえてこなかった。誰も席に着かず、女性の応対を待った。

「どうぞ座ってください、申し訳ありませんが、すでに社長は眠っているようで、急を要する用件でしたら奥様に起こしていただくように頼みますが」女性は一人がけの椅子に座って、熊田に状況を説明した。四人の中で彼の年齢が上という理由からだろう。

「また明日にでも出直します。ご自宅は近いみたいですね」

「ええ、そうですね。車で十分ほどでしょうか。H大学の近くだった思います」女性は眼鏡を触って息を呑む。「あの、樫本は酔っ払って凍死したと聞いていますが、本当でしょうか」

「なにか腑に落ちない点や心当たりがあるようですね」新聞や報道の後続記事と情報を熊田は把握していない。そのような可能性を示唆するにしても、検死報告にアルコールは検出されていなかったのだから、噂や憶測と女性の発言を切り捨てる。

 女性の顔は眼鏡と共に彼女の膝に落ちた。「ネットで見ましたら、色々書かれていて、報道には当たり障りのない情報を流している、だからネットに流れた氾濫する情報のいくつかに真実が紛れ込んでいる。森の中の一本の木は探しにくいですもの」

 達観したような仕草と目つき、彼女の追悼は通常とは正反対に位置する態度に思えた、熊田である。泣いて気持ちを吐き出すよりは、好感が持てる。

「こちらの会社にはどのぐらい勤めていたのですか」

「会社の設立からだから、五年前からです」