コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

回帰性1-5

「相手の人物は?」 

「I市の商業施設建設のコンペで顔見知りになった主催者側の建設会社の人間です」彼は長い足を組みなおした。骨盤のゆがみ、海外では公式の場で許される好意がゆがんだ姿勢の成れの果て。

「この人では」すばやい動作で種田が端末をかざす。無駄にゆったりと種田と端末に視線を送り、険しい目つきで突き出された端末を見つめる多田は、軽く頷いた。

「多分、その人です。担当者ですよね、楓さん?」

「そうね、あなたが言うんなら間違いないでしょうね!」楓と呼ばれた女性は明らかに怒りを表していた。そっぽを向き、多田と顔を合わせない。種田を値踏みした視線で見つめ、顔を近づけた動作が気に入らなかったらしい、わかりやすい態度である。

 相田はかろうじてコーヒーを口に含んで、目を覚まさせた。力の抜け具合で丸い体がだらりとソファに沈む。鈴木はというと、せわしなくポケットを探った。そして、テーブルの灰皿をじっと見つめているのだ。

「よければ吸って下さい。ここは喫煙できますよ」多田が鈴木の気配を感じ取った。

「ああ、いえ、そういうつもりでは……」

「私も吸いますので、遠慮せずに」

「私は吸わない!」楓も宣言。

「天井に換気装置がついてますので、安心してください。服に匂いはつきません。他の場所では吸わない約束なので、まあ、室内で吸えるだけ良好な仕事環境ですよ」

「こういった最新の設備は、どこで仕入れてくるんでしょうか」熊田が訊いた。

「発注を受けた段階で既存の設備ではまかないきれない要求に応じる場合に技術的に新しい設備を探します」

「樫本さんが亡くなる直前に抱えていた案件をご存知ですか?」

「あいつはたしか、プロジェクト落選の原因を社長の指示で調べてたと思うな、楓さん、知ってます?」

「えっ、私?そうねえ、どうかしら。プロジェクトは取り逃がしたけれど、その周辺開発はまだまだうちが立ち入る余地はあるのよね。その辺の案件を探っていたんじゃない?だってプロジェクトの会議やらが終わって、あの子の姿、事務所で見なかったもの、私は別の案件が運良く前の施工主からお声がかかったので、外に足を運ぶことなく新築のデザインと格闘、事務所での作業が多かったし……。それでもやっぱり姿は見てないわね」楓の顔に赤みが差し柔和な表情、多田に寄せる好意が窺える。