公民館における会合には、山遂のほかTAKANO建設の役員、山遂の直属の上司がいた。彼らは、アイラよりも先に席に着いて、アイラは出迎えられた形になった。
無駄に笑うのが日本のビジネスマン。気味の悪い、たくらみごとや信用性に欠けるとは微塵も思っていないのだ。彼らは訛りのある英語を話し、私と意思疎通も問題なく行える。しかも私が日本語を話せるという事実を、彼らは感じ取れていないらしい。目を瞑れば済んでしまうこと、害はないだろう。
「……お話を総合しますと、デザインはまったくの白紙ということですか?」引き締まった表情も作れるではないか、アイラは対面の右側に座る、ネイビーの背広を着た、きつい香水を振りまく役員に攻め立てられた。アイラは窓を背にして座っている。
「ええ、現状では白紙です」役員と山遂の上司がざわつく。山遂は上司の横に萎縮した様子でアイラと特に役員の態度、表情を窺う。秘書の女性は椅子に座らず、テーブルの脇に立っていた。一度彼女と目が合う。また特有の会釈を返された。
「現状、期日は今月末を予定している。そのことはもちろん把握しておられますよね?」ネイビーの背広が、テーブルの上で指輪の光る手を組んだ。
「もちろんですとも、期日をこれまでに破ったという経歴は、そちらが調査したように一度もありません。心配なさるお気持ちは十分に察しますが、何も考えていないのではありません。その点をお間違えのないように」畏まった言葉はあまり得意ではない。しかし、彼らの土俵で仕事を敢行するのだから、受けれなくては。多少の時期であっても日本で過ごした”わたし”である。同一の土俵に立つ感覚は使い続ければ思い出す、そう思っている、アイラである。
「しかしですよ……」
アイラは男の発言をさえぎる。「あなた方が提示した期日までに私は構想を練り、あなた方を納得させる建築を想像する。できることなら、いいえ絶対に、それまではそっとしておいてください。あらかじめ準備を進めていたいのでしょう、そちらは。何かしていないと落ち着かない、または仕事をしている気にならない、というのであれば、そうですね、だったらひとつ提案があります」
「提案?」鸚鵡返しに男は訝しげにつぶやく。
「はい。失敗発生における対処法を徹底的に見直してください」
「ははは。お言葉ですがね、とっくにアクシデントの対処や作業効率の徹底化に取り組んでいますよ。コストや人件費、行程の見直しは時間の短縮、ひいては工期の確実な遵守に結びつく。現状のマニュアルが最も信頼に値するシステムなのですよ」