コンテナガレージ

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回帰性2-6

 アイラは廊下に出て、端末を操作、タクシーを呼んだ。五分ほどでやってきた車両にアイラは乗り込む。「T駅まで」、と告げて、ぼんやり建設予定地を車窓にあてはめて想像を膨らませた。

 ガイドブックの画像が鮮明に蘇ってしまう。

 それほどの私にとって強烈な心象を与えたのか、あるいは私がまだ思いつかない完成形があの画像なのかもしれない。そもそも私のアイディア、流れを汲むのだ、想像も容易い。やはり、ゼロから考えるべきだ。忘れよう、過去として。彼女はこれまでとは正反対の建造物を構想すると固く決意した。

「あれっ、なんだろう?」寡黙な印象の運転手の呟きが聞こえた。アイラは何気にフロントガラスを見つめたけれど、屋根から滑り落ちる雪と、前を走るトラックのタイヤが撒き散らす泥の混ざった雪が見えるだけ。

「煙かなあ、お客さんも見えますぅ?右側です」

 指示されたとおり今までぼんやり眺めた車窓に一筋、空に導かれる煙が立ち昇っていた。天に駆け上がる龍よりも蛇が所在無さげに場違いさを感じて、昇っているようだった。

「あの場所へ行ってください」

 煙の上がる場所は、死体の発見現場である。テープの黄色が雪の白に映えて、靡いていた。

 料金を支払いタクシーを降りた。待っててくれると運転手はやさしさをみせたが、アイラはきっぱりと断った。駅までの道は覚えているし、風雪も昨日に比べるとかなり和らいだ印象。それに私の体はこの国に慣れつつある。

 煙は立ち入り禁止のテープから立ち昇る。あけていたかすかな空は雲によって日を遮られていた。重たい雲だ。

 煙にばかり注目していたら、マジックのように昨日車を停めた場所に似たような形状の車が止まっているではないか。 

 アイラは、それよりも先に煙の正体を確かめる。

 異国の地、それも凱旋だから多少大胆な行為に駆り立てたのかもと自らを分析。