コンテナガレージ

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回帰性4-1

 抜けるような青空に気を取られないよう、日井田美弥都は海岸沿い、歩道のない道を勤務先まで歩く。海に流れ込む川の表面が白く固まる。下面では水は流れているのだろう。美弥都は橋を渡り、店に並ぶ行列に絶え間ない視線を送られながら、出勤した。

 午前十時に開店、なだれ込むお客は我先に席を狙うが、事前にお客の人数を数え、四人席に二人組みが座らないために、入店時に席は店側が指定し、お客に座ってもらうシステムを取っている。ただ、この仕組みは、開店時にのみ適用され、通常営業ではお客が座る席を選べるよう配慮している。

 十一時を何分か刻んだあたり。店長が、設計事務所の人間と窓際の席で家のデザインを話し合う。去年からトーストのメニューが爆発的なヒットを記録してからというもの、店は常に行列が並ぶ繁盛店へと変貌を遂げたのだ。行列は毎朝並び、定休日にも並ぶお客がいたぐらいである。店長いわく、それほど売り上げは伸びてはいないというが、帳簿の記録を見れば、前年度の倍を売り上げている。まあ、元来の売り上げが少ないという現実を真摯に受け止める店長の客観的な視点が謙虚な態度と発言を促したのかもしれない。

 カウンター席に常連のお客が二人、一人はスポーツ新聞を先ほどまで読んで今度は競馬新聞に読み替えていた。それほど、取り入れる情報とやらが果たしてその薄っぺらい紙の束にあるのか、美弥都は不思議でならない。テレビも新聞もネットの動画も美弥都はほとんど見ない。かろうじて雲が張り出した水を落としそうな表情の時に、天気予報を見る程度である。

 何を生きがいに生きているのか、という質問は幾度となく私に関心を示さない人がそういった質問をぶつける割合が多く観測される。興味をもてないのに質問を投げ掛ける行動の無意味さは返答の意志を削ぐことを相手は知らない、私に生きがいはない、そう答えてきた。すると相手は同情を寄せ、いけないことを聞いてしまったように動揺する。どうやら彼らは感情に流されたい、私が下した結論である。 

 緩やかな螺旋の溝がドリップ容器の底に向かい液体の流れを導く製品の作りは、シンプルで無駄がなく、飽きのこない形状。美弥都は店長が持参した日本の新製品、カップに直接置き、ストッパーをはずすと豆から抽出されたコーヒーがカップへと流れ出すドリップ容器を使い、コーヒーを淹れた。もう一名の白髪交じりの常連客に味にぶれが生じていたのであれば、改めて通常の方法で作り直すと、作る際に断りと許可を頂いていたのだ。