コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

回帰性4-5

「ええっと、コーヒーをください。あの、僕の意見聞いていましたか、日井田さん?」鈴木は黒目がちに瞳の形状を変化させて尋ねる。

 美弥都は棚からカップを手に取る。「操る人物が女性を殺したのであれば、見つかりたくはないでしょう。稀に発見を望む人間も登場しますが、ほとんどの人間は犯行が見つからないように願う。しかし、女性の自宅からはサブリミナルを連想させるCDが発見されたと先ほど刑事さんが言っていました。おかしくはありませんか?死体は見つかりやすい場所に放置し、殺害の凶器は隠蔽、だけど洗脳を匂わせる証拠品は回収に至らない、洗脳をかけていたのであれば、自宅のCDはあらかじめ処分できたはずであり、自殺に見せかければ洗脳をかけた人物に捜査の手が及ぶことはない」

「自殺と見せかけた他殺に見せかけた自殺」

「頭が回っていますね」美弥都は種田につぶやいて、手元に視線を戻した。

「うーん、納得はしますよ、日井田さんの意見ですからね。だけれど、どうだろうか」鈴木は首を肩と平行になるまで傾ける。「見つからない証拠が難点です」

「何度も言いますが、事件は解決したのでしょう?」

「解決しました。しかし、それは上層部の決定であって私たちの納得とは言っていない」コーヒーを啜る種田は上目遣いで応えた。

「祟りなんじゃないかなぁ」

「過去の歴史を繰り返したとでも言いたいのか?」熊田が鈴木のつぶやきに対して発言。

「それもありますけど、祟りを利用して、自殺者を募って死んでもらい、凶器を処分して、開発を諦めさせる反対勢力のやり方も可能性があるのかと思って」

「たしかに、死にたくても後処理を懸念して死を断念する人はいるらしいな」

「この世界に悲観を抱いているにもかかわらず、いなくなった世界を案じられるのは、生きたい証拠です」種田がはっきりと言い切る。

「だが、後処理の約束がなされれば、希望者は現れると思う」熊田は煙を吐いた。