コンテナガレージ

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回帰性4-6

「約束は亡くなってから実行されるはず」

「守られない場合もある、ということか」

「どうぞ」美弥都は難しい表情でそわそわと体を揺らす鈴木の前にコーヒーを置いた。議論を再考しているのではない、鈴木は隣の種田の横で熊田のようにタバコを吸うかどうか、決めかねているのだ。

 鈴木は思い切ってタバコに火をつけた。案の定種田が睨み、鈴木は話題をそらす。「ガイドブックが二冊、保管庫から消えたのはどうしてでしょうね?」鈴木は美弥都にきいた。

「……保管庫?二冊?」

「遺留品保管庫です」種田が訂正した。

「バスに忘れたのは二冊だったのですか?」美弥都は言う。

「いいえ」熊田が応えた。「もう一冊は別の事件で回収されたガイドブックです。事件の担当者によると今回のガイドブックと同様に現存する街に架空のイメージを当てはめて掲載した物のようですね」

 美弥都はシンクにお湯を流し、使用済みの器具を洗う。同じ所を何度も。お湯の熱さに気がついて、手を引っ込め、泡のついた器具に持ち替える。

 架空の町並み、二冊目のガイドブック、手付かずの建設予定地、過去の因縁、港、デザイナー、レンタカー、帰国、帰還、循環、帰巣、思い込み、祟り、宗教、CD、再生、録音、マイク、スピーカー、運転手、バス、アナウンス……。

「焼けこげた遺体が見つかった後の捜査の状況を教えてください。おおよそ、筋はみえました」美弥都は手の甲で水道を止めた。

「誰ですか、犯人は?」