コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

回帰性5-1

 止まりかけた鼓動が脈を打つ。レンタカーの追加料金は、とっくに脳内では居場所を追いやれている。

 警察の車両が二台、救急車が一台、しかし救急車はすでに走り去った。蘇生は昨日の時点で無理であるのに、どこでどう聞き間違えたのだろうか、アイラは鼻で笑う。そう笑う余裕が生まれた、と認識しておこう。そこでもうひとつ可能性が浮かぶ、取り乱した私に対する救急の措置だったのかもと。ああ、うん、絶対、間違いない。どれだけ低能なんだろうか、アイラは見下げた視線を救急車に送った自分を呪う。

 見てくれている、こんな風に思えたのはいつの出来事から数えればいいのやら。

 イギリスのあの家、祖父母たちの献身的な振る舞いは私を悲しませまいとすればするほど、私は裏に潜んだ闇に焦点が合った。だから、こうして明るい性質を持ち出せる私が存在している。暗く、落ちないために、悲しませまいと奮闘する人たちに涙をこぼさせないように、明るさを見出したんだ。

 妹をうらやんだのはいつものことで、それでも憎みきれなくて、だから離れて、愛して、謝って、好きと空に投げて、草むらで流れる雲を見上げた。

 急にどうしたのだろうか、いいや、淡々と順番は回り、私が視線を合わせなかっただけのことだ。

 アイラは、助手席のドアを開けて、まだ匂いが残る平原と警察を眺めた。ここには施設を建てるべきではないのかもしれない、外に投げ出した足で雪面をぐつぐつと踏み固める。外は柔らかく芯は固い。目指したのはそんな人間。何不自由ない家庭に生まれていたら、研鑽とは無縁の自分に甘く、他者に手厳しい人間性を形成していただろう。 

 鳥が飛んでいる。名前は知らない。ぐるうぐる、大きな弧を描いて旋回。あんな高い場所から見えているんだ、高い所から見ないと目標物へのルートは決められないということか。

 支えてくれる人が欲しかったように思う。弱みをさらけ出して、ただうなずいて励ましてくれる人が欲しかった。今はいらない。手にすれば、喪失が待っている。失わないために、取り込まないの。

 警官が一人、体調を聞きに来た。問題ないと応えて、しばらくすると黒のセダンが私の車の後ろに停まった。

「なにしているの?」つっけんどんな妹が助手席を降りて、尋ねた。

「黒焦げの死体を見つけたのは私なのよ」

「そう、事情聴取は終えた?」西日を背後に携えている妹、私が望んだ姿だ。