「まあね、同じ話を二回繰り返した。面倒だから端末のレコーダーで録音したのを三回目には聞かせるつもり」
「悪いけど、私たちに話して、あなたの生の声で」返答が欲しかったんだ。
「仕方ないわね」
「じゃあ、後ろの車に乗って」痛い、うれしいほどに。
「はい、はい」
アイラは種田に言われるまま、車に乗り込んだ。若い刑事は警察が歩いた道を辿って雪面をぐんぐんテープに向い、歩いていった。前の席に妹と恐らくは彼女の上司である刑事が座る。
「発見の時間は?」妹はきいた。
「メモを取らなくてもいいの?」
「覚えている」情意がコントロールされている。
「一時間ぐらい前ね、公民館で顔合わせっていう無駄な会議を早々に切り上げて、空いた時間の有効利用にタクシーでT駅まで乗車していたら、白い煙を運転手が見つけてね、気になって車を停めてもらってさ、降りたのよ。そして、深い雪を歩いてテープの中をのぞいたら人が燃えていた」刑事という人種は無口が主流らしい、前の二人は呼吸の息遣いすらもほとんど聞こえない。
「車があるのに、何故タクシーを呼んだ?」種田は低い声で言った、これは昔の妹に近い。
「わたし、てっきりあなたがレンタカーを返したと思い込んでいたけど、違ったみたいね。もしかして、今日はここまで乗ってきていないか、うん、おかしい?まるでちぐはぐ」
種田が助手席と運転席の間から顔を出す。「別の車で現場から一旦離れて戻ったら、レンタカーはなかった。私もあなたが運転して帰ったとばかり思っていた」見開いた瞳は変わらないか、外国の血を受け継いだ瞳はわたしだけみたい。
「免許がないもの」アイラはお手上げのポーズ。
「国際免許で乗れる」
「そうだった。でも、私は乗っていない」
「遺体はどの程度燃えていた?火が上がっていたか?」姿勢を元に戻す種田が質問を続けた。男性的な話し方に聞こえる。
「表現は難しい。くすぶっていたとでも言うのかしらね、燃料が燃えたような匂いは感じなかったし、うーん、ぱっとみて満遍なく焦げている印象を持った」
「周囲に不振な人影は見ませんでしたか?」運転席の刑事がうっすらとひげの生えた顔で振り向いた。無骨な印象は年上に好意を抱く人種たちには抜群のシンボルそのもの。半ば人を諦めたようにも映る。