「またまたぁ、二人して僕を騙そうたって、そうはいきません」鈴木が得意げに高い位置で腕を組んだ。
「しかし、入れ替えて、何をたくらむ?遺体に証拠となるような物質が付着していたなら鑑識が回収している、鑑識が採取した樫本白瀬のデータは盗まれていない」前の刑事は冷静に可能性の先を探る。
「殺す相手を間違えたのかもしれません、私と後ろの人のように」
「姉妹……、個人記録にそのようなデータは書かれていない」
「出生を届けていない、もしくは姓を変えている」
「養子か?だが、顔だけで殺す相手を間違えるとは、考えにくい」
「もちろん、調べたでしょうけれど、殺害者自身が調べ上げたデータ、情報を元に殺したとは限らない。誤った情報を渡すことによって、似ている、そっくりの他人を死に至らしめた」前の二人が独特のリズム、会話の妙。
「だから遺体を盗み出す必要があったのかぁ。一応は納得するけどさ、種田の意見に。だけれども、どうして遺体を盗むリスクを負ってまで他の体を焼いたんだろう。双子だってDNAは異なるんだし、すりかえてもいずれは知られてしまう」刑事とは問題対処の能力が突出している、アイラの体感である。ひとつの事実から複数の可能性を呼び起こす作業こそが要、ということを本能的に知覚しているんだろう、もちろん自覚を持って前の二人は行動を統制、隣の若い刑事は動物的で時に鋭利な感覚に頼る行動様式である。
私の仕事は時間に逆らう、デザインが出来上がったら最後、見守るだけの退屈さ。生み出したデザインは現物の出来上がりで完成と捉えられるけれど、私には用済みの過去の遺物。完成は想像でとっくに新鮮さを失っているのだ。
意識を戻す。
「現状で言えることはもうありません」妹は予測を述べたまでで、憶測は控えた。
「熊田さんは、どう思います?」
「焼死体が樫本白瀬かどうかを割り出す時間が企てた者には必要なのかもしれない」