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千変万化1-1

 アイラの嫌な予感は見事的中した。彼女が借りたレンタカーのトランクから盗まれた遺体が発見されたのである。捜査の手法としては、アイラの身柄を拘束、警察署で事情をじっくり聞き出す。しかし、熊田はレンタカーの借主の情報を隠して、車と内部の納まった遺体の調査を鑑識に任せ、自らの車両で現場から移動した。いずれ上層部の捜査権が及ぶのであれば、先手を打つのが状況の改善に必須。彼は、上層部の捜査員が駆けつける一時間後をタイムリミットと設定した。

 車内ではアイラを擁護する鈴木とどちらの可能性も示唆する種田とで意見が分かれる。また、当事者であるアイラは、冤罪を主張したきり、無言を決め込む。何か別のことを考えている顔であった。

 数分車を走らせて、停車したのは山遂セナを送り届けた公民館である。軽自動車が一台止まっていた。「どこへ行くんですか?」熊田は鈴木の問いかけを顔で受け止めて、返答はしなかった。

 見落とした点をもう一度さらうためだ。上司が安易に不透明な行き先をさらけ出せない立場には、面倒さを覚える。熊田は、山遂セナと面会をはたした。

 会議室のような室内に大人数に対応した白く素材感のはっきりしないテーブルと数脚の椅子、右手には壁に積みあがるアルミのスタッキングチェア、ブラインドを背後に山遂が座り、対面側に熊田たち刑事とアイラが座る。山遂はアイラの姿に驚いていたが、刑事たちの放つ圧力を感じ取ったのか、軽口や好奇の眼差しはすばやく引っ込められた。時間がない、しかし焦りは禁物。熊田は息を整える。種田には感情を見透かされているはずだ、だが彼女は敵ではない、こちら側の人間。一人で生きてた人間は悟られることを何より嫌う。

「あなたにもう一度、樫本白瀬さんについてお聞きしたいのです」熊田はあえて話す速度を緩めた。その分、思考をめまぐるしくめぐらせる。

「私にですか?もう話すことは全部お伝えしましたよ。それに覚えているかなぁ、忘れてしまっているかもしれません」疲れが溜まっているのだろうか、山遂の両目にくっきりと隈が現れ、目が落ち窪む。若い女性が一人、お茶を運ぶ。彼女が部屋を出てから、熊田は本題に入った。