コンテナガレージ

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千変万化1-2

「彼女を見かけたのは具体的にいつごろだったのでしょうか?」

「具体的にですか、そうですねえ」山遂セナは手元の手帳を開く。右手にボールペンを持っている。親指でノックを押す。「この建物を借りたのが先月の末二十六日、ううんと、その一週間後にバスの存在を知ってだから、十二月の頭が最初に見かけた日付ですね、いつだったかは正直覚えてません」

「彼女は決まった席に座りましたか?」

「前から二つ、三つ目ですね」

「忘れたガイドブックを見つけた日ですが、彼女はいつも先にバスを降りていたのですか、あなたが先に下りることはこれまでにありましたか?」

「彼女が先ですね。僕は資料を広げてみているか、疲れて目を瞑っているのどちらか。バスの揺れとバスの傾き、速度が落ちるまで、降りる用意はしていません」

「忘れ物に気がついた日は意識を失った」

「ええ、いつもならドアが開けば寝ていても目は開くんですけど、疲れていたんでしょうね」

「そして、あなたは運転手に起こされた」

「はい。起こされて目が覚めた。席を立てば、彼女がすでに降りている、自分は電車に間に合うだろうか、そう思って、何気なく座席に視線を送るとガイドブックが忘れてあったんです」

「あなたは運転手に断り、ガイドブックを彼女へ届けようと持ち出した。しかし、彼女は駅のホームでも車両でも見つからなかった。そして、翌日の新聞で彼女らしき人物の死を知り、現場にガイドブックを持参した」熊田はここで言葉を切った。山遂と視線を交錯させる。「彼女とは面識がなかったとあなたはおっしゃっていますが、I市臨港沿いの施設建設のデザインコンペで、彼女はその最終選考に残ったデザイン事務所の社員でした」

「本当ですか!?」山遂は両手を突いて身を乗り出す、しかし熊田の表情と漂う不穏な空気を感じ取り、かけられた嫌疑を悟る。席に腰を下して山遂は弁明する。「日本の企業ですね、クリエイティブ・クリエイション。しかし、女性の方は一人しか覚えていません、彼女ではなくもっと年上の方でした。本当ですよ」

「正直に言ってくれない?」アイラが強引に会話に割って入る。外国特有の間の悪さと意見の主張、聞いてくれ、理解されなくても構わない、だけれども私はこう思っている。そういった気概を熊田は感じる。