コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

千変万化1-4

「お茶を運んだ女性ですか?」熊田は言う。

「はい、彼女と隣の部屋で一緒でした、トイレには立ちました。それでも五分ぐらいです。車を建設予定地まで運ぶのだけで五分は過ぎてしまいます、不可能だ」

「車は運転する人物が代わりを務めれば、良いだけのこと」種田は涅槃の目で山遂を見据える。

「刑事さんたち、どうにかして僕を陥れたいようですね?」山遂の片側に現れる影が黒色を強める。

「隠し事はあなたのためにはならない」

「アイラさんのためにはなるんでしょう」

「いいえ、事実が彼女の潔白を証明するだけ。助けるつもりは毛頭ありません」

「言ってくれるじゃない」

「手を差し伸べたら、あなたは必ず躊躇う」

「もう捨てたわ、掴んで安定してから吟味する」

「後悔が湧いても?」

「戻れないなら、思いつめてもしょうがないわ。だったら、次回への課題に意識を塗り替える」

「コントロールは上達した。しかし、感度は鈍った」

「両立は無理、あなたは見たい。捨てられない」

「私は初めから丸腰で生きている」

「いいかげんにしてください!」山遂がテーブルを強打、種田とアイラのやり取りを強制的な形で終わらせた。山遂は、取り繕い、謝罪を述べる。「すいません、大きな声を出して、いやあ、最近眠れていなくて、さっきまで仮眠を取っていたんですよ。大丈夫です、心配には及びません、精神的な病でもありません。……疑われてますよね、僕は?」種田へ山遂は質問を投げ掛ける。感情と口調の不一致による不具合が顔をゆがませている。

「その人がレンタカーを利用するのは予測できなかったはず。それらの行動を利用したとなれば、突発的に思いついたその人とは来日後に接触した人物。唯一、あなただけは生前の樫本白瀬とそちらの人、両者に関わりを持つ。ですが、あなたは勘違いをされている」

「熊田さん、二十分経ちました」鈴木が時間経過を告げる。

「次だ」熊田は立ち上がる。「お手数かけました」

「僕の潔白は証明されましたよね?」引いた椅子を戻す熊田に山遂が縋るように言う。