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千変万化1-8

「どうしました?」熊田が問いかけても、返事は曖昧。

 見下ろした熊田の態度が威圧感を与えるのだろうか、熊田は一人がけの椅子に座った、鈴木はドアの脇で腕組み、壁に背中を預ける。

 黒河の両手が力強く握られる。汗をかいた額。震える肩。言いかけた白と黒のコントラストの口。

 瞬間、見渡した瞳に白さが際立った。

 殺気が走る。

 熊田、種田が中腰で構えるが、アイラは深く腰を据えたままだ。 

 黒河の焦点はテーブルを挟んだ正面のアイラを標的とみなす。

 立ち上がると同時に黒河の上着が左右にめくられる、右脇腹のホルスターと拳銃が熊田の角度からはっきりと見えた。

 鈴木が叫んだ。拳銃の所持を伝えたのだろう。種田には見えづらい角度だ。

 黒河は右肩を引き、折りたたんだ肘が最小のストロークで前腕を振り子のように拳銃へと導く。

 熊田の胸では端末が振動。連絡主は上層部にちがいない。

 はじかれたように種田が飛び出した。

 ソファにしゃがむように膝を畳んで跳ねる。

 右足が前方に引き伸ばされて、宙を舞う。

 種田の右足が黒河の喉から顎を捉え、天井に跳ね上げた。

 胸を基点に、種田は回転。テーブルに着地。

 しかし、黒河の右手には拳銃にかかったままだ。仰け反りながらも、引き抜き、銃口を向ける。

 鈴木が危険を知らせるが、何を言っているのか聞き取れない。

 数秒の遅れを取って熊田がテーブルをよけて黒河の右側から近づく。

 手を伸ばせばつかめそうな距離。

 ハッ。黒河の気遣い。

 わずかに見えた口の端が不敵な笑みを想像させる。このまま視界の確保を捨てて、拳銃を乱射する気だ。

 届かない、もう一歩踏み込まなければ、熊田の手が伸びる。

 視界の端で、アイラが時間の遅れに抗い、いつの間にか立ち上がっている。