「どうしました?」熊田が問いかけても、返事は曖昧。
見下ろした熊田の態度が威圧感を与えるのだろうか、熊田は一人がけの椅子に座った、鈴木はドアの脇で腕組み、壁に背中を預ける。
黒河の両手が力強く握られる。汗をかいた額。震える肩。言いかけた白と黒のコントラストの口。
瞬間、見渡した瞳に白さが際立った。
殺気が走る。
熊田、種田が中腰で構えるが、アイラは深く腰を据えたままだ。
黒河の焦点はテーブルを挟んだ正面のアイラを標的とみなす。
立ち上がると同時に黒河の上着が左右にめくられる、右脇腹のホルスターと拳銃が熊田の角度からはっきりと見えた。
鈴木が叫んだ。拳銃の所持を伝えたのだろう。種田には見えづらい角度だ。
黒河は右肩を引き、折りたたんだ肘が最小のストロークで前腕を振り子のように拳銃へと導く。
熊田の胸では端末が振動。連絡主は上層部にちがいない。
はじかれたように種田が飛び出した。
ソファにしゃがむように膝を畳んで跳ねる。
右足が前方に引き伸ばされて、宙を舞う。
種田の右足が黒河の喉から顎を捉え、天井に跳ね上げた。
胸を基点に、種田は回転。テーブルに着地。
しかし、黒河の右手には拳銃にかかったままだ。仰け反りながらも、引き抜き、銃口を向ける。
鈴木が危険を知らせるが、何を言っているのか聞き取れない。
数秒の遅れを取って熊田がテーブルをよけて黒河の右側から近づく。
手を伸ばせばつかめそうな距離。
ハッ。黒河の気遣い。
わずかに見えた口の端が不敵な笑みを想像させる。このまま視界の確保を捨てて、拳銃を乱射する気だ。
届かない、もう一歩踏み込まなければ、熊田の手が伸びる。
視界の端で、アイラが時間の遅れに抗い、いつの間にか立ち上がっている。