「ええ」
「バス会社へ聞き込みに行った時は、その車はまだありましたよね」
「ええ、確認しています」
「現場で待機していたI署の警察が車を動かしたということはあったでしょうか?」
「聞いていません。確認も取ってはいない、事件とは無関係と思っていましたから」
「それではすぐに確認を取られると、様子が見えてくると思います」
「鈴木!」熊田の命令に鈴木が対処、咥えた煙草をひと口吸って、連絡を取る。
「なぜレンタカーが関与していると?種田の姉妹は偶然、種田の運転する車に同乗していた、だから現場に顔を見せました。予測の判断は難しい」熊田の片手が表を向く。
「現場に犯人が潜んでいたのですよ。人が隠れるほどの積雪が当日は見込めたので犯行に及んだ。犯人は殺害したカシモトシラセの遺体を臨港沿いの敷地に置き去りにしようとしたが、立ち去る途中にパトカーが駆けつけたために咄嗟の判断で雪に隠れたのでしょう。質問はあとで受け付けます。しかし、犯人は発見を免れて現場から逃げおおせた。ええ、あなたが運転してきたレンタカーが置き去りにされていたからです。当日の積雪と現場が更地であった点を考慮するなら、人が隠れるほどの雪に紛れられた、また借り出された警察はあなた方、大掛かりな捜査とは思えない、視界の悪さも多分に影響を与えた。また、警察の車両はキーを抜かずに現場にいち早く降り立つ、すぐに移動できるようにという解釈もできるでしょう。ええ、そうです、車はいつでも発進できるような状態、それを犯人は利用したのです。あなたは姉妹が、姉妹はあなたがレンタカーを返却したと互いに勘違いをしていた。ここで犯人はレンタカーの更なる利用に踏み切る。レンタカーのトランクで見つかった遺体はカシモトシラセさんでしたか?」
「彼女です」種田が言う。
「焼死体は?」
「彼女ではない、女性の遺体です」
「では、なぜ焼死体と一緒にトランクの、いずれ見つかってしまう彼女の遺体も焼かなかったのでしょうか」
「計画にずれが生じた」
「計画?」電話を終えた鈴木が言葉を繰り返す。美弥都が鈴木を見つめて、話の主役を譲った。
「警官と刑事、誰も車両は動かしていないそうです。車両の停車はI西署の二人の刑事が目視しています、当然ですけど彼らの見える位置に車は停まっていたわけですからね。うん?まてよ、だったらおかしいですよ」