コンテナガレージ

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千変万化2-5

「なにがだ?」

「だって、あの二人の刑事はずっと現場にいました。僕らがバス会社の黒河から事情を聞いて戻るまで、二人は現場で待機していた、なのにレンタカーの移動に気がつかなかったことがありえますか?」

「彼らは現場に居続けなかった、あるいは視界不要でレンタカーの移動を見逃した」美弥都が言った。

「都合が良すぎる」

「本来、都合は良くて当たり前、悪くて非難される対象です。ですが、日常はそのどちらでもなく、それぞれを行きつ戻りつ、境界線を越えたり、戻ったりしている。偶然という言葉で現実をまとめ上げると、あなた方が店でカウンターでコーヒーを飲めることも、ここへ事故に遭わずに辿りついたことも、必然とは言い切れはしない。それが事実、現実のあり方。見方が一様であるならば、物事はとても単純ですが、世間はそう見えないのが不思議。つまりは、人による解釈がそれぞれによって異なる、ということがいえるでしょう。盗まれた車が姿を消して、翌日に舞い戻ったのは車を人間が運転し、運ばれた。ただし、運転手は頼まれたのかもしれない、どこどこまで運転して乗り捨ててくれとね。現場に現れた車から降りてきた人物を誰も見ていない。もちろん、あなたの姉妹が乗ってきたのでは、という解釈も浮上します。しかし、タクシーの運転手の証言は存在するので、正当性が得られたなら彼女は車の移動に関与していないと断定できる。ただし、ここでさらに疑問を解決しなくてはなりません。煙が上がっているのに気がついても、何故タクシーの運転手だけが気がついたのでしょうか、他の運転手たちは無論運転中ですし、仕事の途中でしょうから、おいそれとルートを外れられない。視界も良好とはいえない状況だったのです」

「それは、タクシーの運転手が小銭を稼ごうとしてですよ。遠回りでメーターを上げようとしたんです」鈴木だけが応えた。熊田は一本目の煙草をまだくゆらせる。

「以前から何度も似たような状況、要するに煙が幾度となく立ち上っていた過去が状況に加算されている」種田が応えた。

「おっしゃるとおりでしょうね。当たり前の光景だからこそ、あえて近づこうと行動に起こさせる動機にまでドライバーのハンドルを変えさせなかった。すると、今度は近隣を走り回る、道や風景の変化に詳しいタクシー運転手に疑惑が浮上します。彼は明らかに独り言をつぶやいていました、あなたの姉妹の証言によると。つまり、それらは知らせるため、意識を向けさせるための行動と考えられます。行動は金銭の搾取か目撃させるためのどちらか。あるいは、そのどちらでもない単なる偶然か」