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千変万化2-6

「待って下さいよ」鈴木が話の流れを止める。「種田の姉妹が一番に駆けつけたのは、日井田さんの論理だと、偶然と判断してしまうんでしょうか、これだけ事件に関わっているのに?」

「そうです」

「あの、そう、簡単に認められると困っちゃうなあ」

 美弥都は淡々と言う。「灰になるまで燃やし尽くしたかった、と考えられる。遺体がひとりでに移動し、発見された場所で燃え尽きたら、祟りという不確かな現象に縋る市民の心理が増幅され、それを巧みに操るのが狙いだった。しかし、灰に返す前にあなたの姉妹が見つけてしまった」

「だけどですよ」鈴木が高い声で反論した。「レンタカーに遺体を保管する意味がわからない。僕なら、危なくってそれこそ、雪に埋めておけば、しばらくは隠せます」

「そう。ですが、常に行動を共にしていたかった。極寒の外に放り出すことは躊躇われた。せっかくの離れ離れが解消された、どこへ行くにも一緒が良かったのでしょう」

「死体の搬出方法とトランクへの保管を聞いています」種田の口調が強い、背中でも彼女の表情の変化が想像される。

「レンタカーは軽自動車、それも赤い色のボディカラーではなかったのでしょうか?」

「……」会話のラリーが途絶える。

「公民館に出入りするTAKANO建設山遂セナの秘書の女性が軽自動車で通勤していた、何度も通っていた、山遂セナは彼女の車に乗る機会があったでしょう、その時に車内の小物を覚え、あなたたちが借りたレンタカーに同様の内装を施し、あたかも彼女の車であるかのように振る舞った、偶然にもあなたたちが借りた車両と秘書の女性が所有する車の種類が一致したのです、あらかじめもう一人の刑事さんが一人で来店した際に調べておいていただきました。交換された車は警察署に赴き、検死を終えた死体をトランクに回収。翌日、あなたのご姉妹の前、煙の昇る現場にそっと移した。都合をつけて秘書の車を借りたのでしょう、人気のない公民館から程近い場所で死体を入れ替え、死体を積んだレンタカーを現場に、そして公民館へ秘書の車で帰還した」

「警察の管理下をすり抜けて一般人が遺体を運び出すなんて、正直想像がつかない」鈴木が大げさに首を振った。乾燥した髪が遅れて追いかける。「簡単に出入りができる場所ではありません。鑑識の人間が手に引きしたとでもおっしゃるんですか、日井田さんは?」

「どうかしら。誰に遺体を動かせる権利と権限が付与されていたのか、そちらの方面から探ると真実に行き着く。警察が、ああ、あなた方ではありません、もっと上の方が捜査を打ち切ったのは、それらしい内部事情を抱えたからと推察されます。もちろん、確証はありませんし、変装の名人が手際よく監視や署内の人間に怪しまれずにまんまと遺体を運び出せたのかもしれないですし」

 

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