「講義中の私語は厳禁と教わりませんでしたか?」
「試験とレポートに出席日数、大学へ通う意義が見出せたら、私も大金をつぎ込み、勉学に励むわ」
「二冊目のガイドブックを僕にあえて盗ませましたね、今更言っても、どうしようということはありません。だけれども、事前に教えてくれていてもよくありません?」
「無意識にとったあなたの行動だからこそ、価値があった。最初から二つを盗み出すと、行動はかなり異なる様式を選択したでしょう?反論があるなら聞くわ」
「いいえ、そちらの思惑を尊重します」部長は言葉を切った。「地図に描かれたZ町の開発は、電力供給都市の未来像を体現した、海上風車が乱立してました。あれでは住民の日常生活は困難でしょう。あの地図は組織の実態を明かすはぐれ者……」
「言葉が過ぎると首を撥ねられますよ」
「刀の時代はとっくに過ぎたのに、たとえ言葉が残っているはとても不思議です。それぐらい印象の残る場面だったのかもしれない」
「常識はその都度絶え間なく形を変えなくては常識とは言えない。人が作りしものに、常体などという枠をはめるべきではないのです」
「警察は一向に変わりませんがね」
「既得権益が莫大だからでしょう」
「どこも格差社会ですね」
「どなたが作成したか、調べてくれない?」
「正式な依頼と受け止めても?」
「同じ言葉を二度も言わない。音声に頼ってばかりだから、処理が遅れる」
「耳が痛い。犯人は誰なんでしょうね」
「さあ、口にすれば真実になってしまう、たとえそれが事実に反した現実であってもね」
「寒気がしてきますね、ここ。ドアの近くは冷えます。かといって窓際は暑すぎる」
「しばらく、時間を空けます」
「本業に戻るので?」
「あらっ、知っているの私の仕事を?」
「ルーティンがもっとも人を欺いてくれますから」