コンテナガレージ

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パート2-1

 夢うつつの中にあっても頭はぐるぐる回転。微かなまぶたの開きから送信される情報を取り入れては、捨て去り、思考に集中を促す、呼び水。右側の映像を構築してみるが、上手く再現ができない。欠落部分に必要とされる情報、緊急で重要度の高い、思い起こす記憶などあっただろうか。改めて疑問が浮かぶ。ない、とは言い切れないか。いつだって見落としはつき物だ。

 平屋の家に到着しても考えとは常に一緒。似たようなつくりの建売住宅が並ぶ一帯、かろうじて違いを言えば庭の草木であったり、駐車された車ぐらいだろう。僕にとっては住人はどれも同じ顔に見える。まだ、判別はつかない状態。

 手を洗い、夕食まで右目の眼帯をはずす許可が下りた。部屋に戻る。部屋には似つかわしくない姿見の前に立った。視界はくっきり右側だけが欠ける。上着を脱ぐ、二の腕が青く変色、肘には一線、赤い切り傷、脇腹の打撲の治りを指で確認する。まだ痛みは引かないが、気にするほどでもないか。次に下半身、パンツを脱ぐ。下着のことではない。いつから名称が変ったのか、専門用語が浸透したように思う世間への広がりと僕は解釈する。太ももは無傷、しかし、膝は覚えのない直径約二センチの赤みが出現している。軽くため息。まだ、上手く右側の視界を再現できないでいるようだ、かなり上達したとは思っていたらしい、大幅な修正が必要である。

 服を着てベッドに座る。不自然なベッドの配置。ベッドはドアを開けると正面に置かれている。通常ならば、ドアから最も遠い、対角線上の角に配置されるはずなのに。部屋に飽きたからではなく、僕がベッドの位置をドア正面の壁とドア右側の壁にくっつけたのは、ちょうどのその角に背中を貼り付ければ、ドアと右側の窓が視界に納められるからだ。窓全体を見るためには本当は三十度ほど首を回す必要があるけれども、押し出す取っ手は視界に捉えているので、問題はないのだ。

 なぜ僕が周囲に気を配っているかは、おそらく何者かに連れ去れる危険性を孕んでいるからだ。それは両親も学校側はもちろん知る由もないし、僕だってつい最近その事実、可能性に気がついたばかりなのだ。この国に渡る飛行機での出来事を思い返したら、そういった考えに思い至った。

 長時間のフライトで両親は早々に眠りに着いた。出国が早朝だったこともあり、また日々の疲れも溜まっていたのだろう、僕はそっとしておいた。何度か乗務員、制服を着た女性が気遣うように、僕の事を見ているとのアピールをかねて話しかけてきた。両親たちの席は通路を挟んだ反対側である。座席は後方、乗客が立ち上がって僕の脇を通る。そちらにトイレがあるらしい。