コンテナガレージ

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パート4-1

 高所の建物。引かれたカーテンは一様に白、高い雲と酷似。白い雪とは違って見えた。通された部屋は一階の部屋。右側の視界の解放に合わせてか、用意された個室のベッドに仰向けなり、僕は薬によって意識を失った。これは自然な眠りかそれとも、局所的な身体異常を改善するための休息として作用するのだろうか、僕は眠りを落ちる数秒であれこれ連想。そうしたら目が覚めた。両親は仕事を休んだらしく、二人揃ってベッドの傍らに座る。ぼやけた視界、かろうじて声と輪郭と服の色や状況から両親を見分ける。白衣の人物が三人、看護師も一人を視認。ゆっくりと起き上がった。看護師が背中を支えて、枕を腰に立てた。普段ならば施さない、仕事だからだ、親切は別物。けれど、お尻が沈むベッドに足を伸ばして座るためには背後に体重を預けるのは大変楽な姿勢である。ありがとう、無意識に感謝の弁が口をついた。医師の一人が右側の視界の見え方を尋ねた。僕は左目を瞑る。

「片目での視力はピント調節に慣れが必要ですから、まだ本調子ではありません。ええ、ぼやけたまま、水中に入った視界を想像していただければ。僕にはそういった映像が見えています」

「両目ではいかがですか?見え方の違いは?」

「まだ左目だけの方が映像はクリアです。解像度は想像の映像が上回る。まあ、これも時間の経過で変化するでしょう」

 僕が理解しやすいようにゆっくりこの国の言葉で、ひげを蓄えた医者が訊いた。「あなたの細胞は回復しています。以前よりも見えないという現象は考えにくく、見えないのはもしかするとあなたが見たくない、そう思い込んでいるのがひとつ視界の欠落を与えた要因かもしれない」ジェントルな声。僕が理解に及び、受け入れる度量を見込んで彼は非情な可能性を示唆した。ありがたい。見たくない世界というのは、正解だろう。しかし、右側のみの視界欠如を理路整然には説明していない。それならば永久に現実を離脱する死や完全な暗闇、まあ光は感知するかもしれないが、闇に近い視界を望まなかったのだろうか、という疑念が浮かぶ。段階を踏んでいるまさに今がその時、という可能性も候補に挙がる。だがしかし、躊躇うべきならば、初めから闇は求めない僕だ。両親が上ずった声で体をゆすり、さすり、手を握って自分たちを見てくれと懇願する。見えている自分たちが心配な様子だ。

「左側だけでも見えてる。まったく見えなかったんじゃないんだからね」不思議にも相手を気遣う言葉を吐いた僕がいる。みんな、微笑をたたえる。腕を組んでも、片方の足に体重を乗せても、窓のサッシに手をかけていてもだ。