コンテナガレージ

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パート1(3)-2

「具体的な普及はそちらにお任せします、そういった方面に興味はありませんので」

「製品化は来年初旬を予定しております。それには……」

 僕はさえぎる。「わかっています、出資者を納得させる詳細なデータが必要なのですね」

「はい。私どもとしましては、価格の三パーセントの契約を望みます」

「五パーセント」

「ご冗談を」男性が声を出さず、顔に皺を作って笑った。

「私はすべて真実を話しています」つり革から芝居がかった様子で乗客が倒れこむよう優先席の赤いシートに収まる。「これは失礼をしました。はい、肝に銘じておきます。それとですね、必要に際して自由にご使用いただく銀行口座も作っておきましたので、気兼ねなくご利用ください」

「監視の下で、という意味ですね?」

「はあ、何からなにまで、まったくその通りです。どうしてもと言われるのであれば、私が専用の講座を秘密裏にお作りします」

「結構です、使えれば問題ありませんので。見られても予測は難しいでしょうから」アナウンス、ターミナル駅へ電車が到着する。隣の男性が、稼動を再開した。口元を拭い、左右に視線を走らせる。車内もざわつき、降車の準備でいくつかの上半身が見えた。話していた男性も立ち上がる。車線が変るため、ホーム進入前は大きく車両が揺れ、これに任せて男性はこちらへバランスをわざと崩し、カードを、僕の抱える鞄と体に滑り込ませた。半透明のケースに入ったカードである。男性はよろめきながら、通路を進行方向へ歩き去った。隣の男性がそわそわ、降りる時に僕が邪魔なのだろう、気を利かせて、早めに立ち上がってあげた。後方の席から、外を眺める外敵への印象付け。カードは校章の刺繍が縫われた胸ポケットに投入した。

 駅に到着、具合の悪そうな優先席の女性も立ち上がって降りるみたいだ。僕はデッキに陣取り、一番に降車。人の流れを一旦、見届けてから優雅にホームを降りるのが僕のスタイルである。一緒に降りるとなんだか急かされるみたいで疲れるのだ。声がかかった。

「警察だけど、驚かせてごめんね。電車で話していた人は誰なのかいえる?」尋問だろうか。覗き込むような視線は、あきらかに僕を見透かしている。