コンテナガレージ

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パート3(6)-4

「私はあなたの死角を求める者です。家の裏手に移り住むあなたが、もし環境や家を提供した組織に嫌気を感じたのならば、私どもを頼っていただければ、共に有益な時間を今後は送れることでしょう。常日頃より、あなたを見張っています。探してもおそらくは見つかりません。無益なことに心血を注がないあなたはそういった暴挙には出ないでしょう、私どもも時間を有効に使いたいのです。ですから、より良い環境を求めるのであれば、是非こちらに合図をお送りください、すぐに駆けつけ望みの環境をご提供差し上げます。もちろん、あなたのデータとの交換条件ではありますが、その辺はご理解をいただけているものと解釈しています」カードに書かれた、ペンの細かな字。文字を見て人を思い浮かべる事は久しぶりの行為だ。内容は取るに足らない。あて先は不明、彼らに見つからないように合図を送れるのか、僕は考察してみた。所在の知れない相手に連絡を取る方法、しかも彼らの監視を掻い潜っての合図は、現実的とは思えない。彼らに知られてもかまわないといったスタンスならば、考えられなくもないが……。

 暖炉のそばに置いてあるマッチを手に取り、封書を燃やした。煌き。僕は相手の善意を返り討ちにしてはいないだろうか、沸き起こった疑念に答える前に、警報機が作動した。重低音が鳴り響く。半径一キロ以内に母の携帯が家に接近すると、警告を促すのである。折りたたんだダンボールを壁に立てかけてペットボトルの水を飲み干す。空いた容器はきちんとラベルを剥がし、キャップとボトルを分別。キッチン、シンク下の扉の内部に仕分けされたゴミ箱が用意される。これらの情報は、冷蔵庫に張られた一人暮らしの老人へ、磁石で留まった紙に書かれていた。警報機は、地下道の外部監視用のモニターと並ぶもう一台のモニターに表示された作りかけの文書で知ったのだ。地下を抜けてハッチをあける。ポケットのふくらみ、縄跳びの感触を確かめた。

 灰色の物置の壁、腰のあたりの空気口から漏れる光が一瞬途切れた、太陽が隠れたのか、それとも人為的な移動か。

 上がった息を整えて僕は外に出た。

 眩しい、強い日差しに負けて目を瞑ると、見上げた視線の先に寒空の下、無線を口元に寄せる人が隣家の屋根に立っていた。