コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて1-3

 ランチは限定数に達し、ホール係の国見蘭が外で食事を待つお客にランチ終了の文言を伝えた。食べられないことを予測していなかったのだろうか、お客の中には執拗に食事の提供を訴える者もいた。

 捨て台詞。

 前もって、最悪の事態を予期していれば、陥った出来事にそれほど悲観することも無いはずだ。頭をまるで使っていない。

 時計は針を刻み午後二時前。一時の間にお客はすべてはけた。国見が最後のお客に応対、見送り、入り口の札をクローズに返す。

「今日はいつになく、パワフルなお客さんばっかり」厨房で一番若い小川安佐がため息と共に声を発した。彼女は皿を洗っている。

「はい、これも」同種の皿を器用に重ねて運んだのは館山リルカである、帽子を脱いで黒髪を結びなおす。後ろで結んだ長い髪が歩く度にゆれ、店長の横を通過、ピザ釜のあたりでまとめた髪を、口にくわえたピンで二箇所留めた。「ご飯ってそんなに食べたくなるもんかな」

 小川が顔を上げて応えた、顔の向きは正面の洗い場を向いた状態。「それはそうですよ、だって日本の国民食、主食ですからね」

「店長、今週までお米は持ちそうですか?」館山は不安そうに訊いた。

「ランチのメニュー次第。どんぶりや和食が続けば、週をまたぐ前になくなってしまう可能性もある」店長はたまねぎの皮を剥いでいる。

「お米の仕入れは難しそうですよね」小川は泡のついた皿を掴んでつぶやく。

「不可能ではない」店長は言う。「対価と利益のつりあい次第では、追加の発注も十分にあり得る」

「手に入ります?」館山が顎を引いた。丸い瞳で店長を覗くように見つめる。

「出回っていないとは聞いていないよ。高価、高額、割に合わないとだけしか聞いていない。価格の上昇は一部の人間が買い締めたともいえる、不安なんだろうね、それともビジネスかな」購入と販売の差額が利益。それが、ビジネスといえるのだろうか、店長は思う。