コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて1-5

「店長、今日もランチは売り切れでしたね」水分をふき取った皿をカウンターに戻して、国見は話しかけた。彼女の腕が店長の視界に入る。間が空く、彼女は続けた「……そのう、お米のことなんですが」

 ホール側の国見と対面、彼女の言いづらそうな表情で内面を悟る。店長は応える。

「まだ決めていない。経済的な利益だけでは判断はしないし、お客のニーズもまだ十分に掬い取れていない状況での発注は危険だ。こればっかりは初めての事例だから、予測はかなり難しいと見ている。何もしていないように見えたなら、言い添えるけど、いくつかの考えは常に抱えている」

「業者の助言に従ったほうが正解だったんでしょうか」彼女に接客と店の帳簿を任せているため、経営状態には敏感な態度を示す。しかし、小川の耳に入るとまで考えが及ばない、これが彼女の若さという一点集中の盲目的な視野の狭さだ。

 店長は深いザルに置いたむき終わったたまねぎを今度は薄く包丁でスライスする。

 その場に留まる、答えを求める国見に店長は応えた。「食べられなくなれば、代替に頼る。米が食卓に必須ということはもしかすると頑なに受け継いだ風習を守っているだけなのかもしれない。疑いようもなく米を食べていた子供の時に、まったく別の食習慣を植え付けられていたら、結果は僕や国見さんの好みは異なるだろう。……多くの人間が数百年、数千年、数万年に渡って、味わってきた。だからといって、米以外を主食の選択から除くのは間違っている。外国で暮らせば、日本の食べ物は手に入らない環境だって日常。しかし、米が、味噌が食べられなくても食事を断りはしない。ほかの物を食べなくては命や活動に支障をきたす。それに今日だって僕らはお米を食べていない、まかないは小麦粉に、水と少量の塩、あとはトマトソースにモッツァレラチーズ、バジルの葉だ」本日のまかないはピザ釜で焼き上げたマルゲリータであった。

「お米が食べられないという禁断症状ですかねぇ。なんだか、ピリピリして怖かったですよ、お客さん」しゃっきり、何事にも動じない国見が弱気な発言。小川は聞いていないらしい、鼻歌と洗浄器の稼動音、シンクに溜めた水の中でごつごつ皿がぶつかる鈍い音が聞こえる。