コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

蒸発米を諦めて1-7

 女性がふっと、息を吸い込んだ。「お願いします!」店内が彼女の声で覆われた。同時にまた頭が勢い良く下げられる。「息子のためにどうかお米を譲ってください。食物アレルギーで食べられるものが限られています。このままじゃあ、お米を食べさせられません、ここしかないんですぅ、もう……」入り口で泣き崩れた女性が、視界から消えた。ルーティンに付き物の問題発生である。定期的、決められた時間の作業には必ずといって、アクシデントが起きる。このアクシデントに対応できる用意が時間内に仕事を進める上では必要不可欠。

 すり鉢で擦った殻つきの香辛料を一粒残さずステンレスの容器に移して、蓋をする。手を洗い、店長はゆっくりと泣き崩れた姿をカウンターを出て再確認した。

「とにかく座りましょう」彼女を抱き起こしてカウンター席に座らせる。店長は入り口に背を向けて腰を下した。「お米は限られた量しか持ち合わせはありません」

「どうしたらいいのでしょうか?」彼女の固く握った両の拳が腿の上、正確にはクリーム色のコートの上で小刻みに揺れる。「食べられないんです、学校では給食が出ます。だけれど、息子はいつもお弁当でした。穀物はお米しか受けうけない体質で、小麦粉、そば粉を口にするとアレルギーを起こしてしまい、ひどい時は入院もしていました。なので、お弁当を毎日持たせてます。ただ、お米が値上がりしたため、もう家でお米を買うことが金銭的に苦しくなって、店の値段は購入額の範疇を超えてしまった……。どうか、どうか私にお米を譲ってください。お金は払います、お店の値段よりはそれは少ないですけど、……これから私、息子のお弁当に何を入れて持たせればいいんでしょうか?これ以上、肩身の狭い思いをさせたくはありません。お願いします!」