コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて1-8

 偏った健康、特に父親の、荒れた食習慣の期間に生まれた子供はアレルギーの発症が高いと聞いたことがある。形質的な遺伝とは異なり、一代前の生活習慣が生み出した体質が受け継がれたのだろう。この店では、食べられない食品を取り除いてくれ、そういった要望はほとんど聞かれない。成長し大人になれば体質は改善されることが多く、しかも子供連れのお客は、週末に姿を見せるのが主な登場で、子供向けの椅子が用意されているのでもなく、子供に特化した対応は行っていないのがこの店である。

 縋るようにおびえた、捨てられた子猫のように彼女は振り乱して崩れた髪の隙間からこちらに訴える。

 店長はきいた。「どのぐらいの量を要求しますか?」

「……、あ、あの、譲っていただける、あのう、私に、私に売ってくれるんですかぁ?」

仕入れ値と調理代は含んで、つまりここでライスの単品を複数注文したと思えば、コストと利益は両立します」店長は、興奮気味にこちらを離さず目で追う彼女を広げた手のアクションで静止を促し、レジの下から帳簿を取り出した。「ライスは二百円、お茶碗一杯分に換算すれば、並み盛強の量です。ご飯は一度に五キロを炊きます。小川さん、炊飯器にまだお米は残っていた?」

「お米ですか?」振り返る小川は数秒の間を持って応える。「一杯分がかろうじて」

「計量器でお米の重さを計って」

「いいですよ」小川がはきはきと数字を述べる。「百八十グラム……、はい、約百八十グラムです」

「お米五キロに水が三リットルで、八キロ。約四十四杯。五キロで八千八百円でいただきます」

「本当によろしいんですか?お店だってお客さんに提供する分が限られている、それにスーパーで買うよりも安いなんて……」彼女は驚きを表現する、口元、鼻を両手でふさぐ。

「値上がり前に購入した物をその当時の価格で提供することになんらためらいはありません。値を上げた正体は政府の方針や今後の予測に応じた価格変動の先走りを包含する先物買い。本来の価格、まあこれまでの価格が適正がどうかは怪しいですが、長期間保たれた価格を大幅に変動させるのは、何らかの見えない利益が多分に含まれていると誰でも予測が立てられる。そういった金銭のみの関わりと興味に踏み入れたくは無い、だから、こうしてあなたにこれまでの価格に基づいたサービスの提供するのです」

 支払いが成立。

 女性は軽々と五キロの米を肩に担ぎ店を出て行った。

 あっけに取られ小川は、今週の提供分のお米を指を折って数える。裏の倉庫から米を運んだのは彼女である。

「やっぱり、土曜日まで持ちませんよ。明日は休日、しかも最後の正月休みの週末。お客は今日の比じゃありません」

「なくなれば代用品でまかなうか、白米を使用するメニューは取り除く」

「パスタとピザばっかりになってしまいます」店長は小川の訴えを聞いていないような雰囲気でレジの下に帳簿をしまうと、厨房に戻った。手を洗い、作業を再開する。