コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて4-3

「あれ、もう終わりですか。すいません、眠ってしまったみたいで あはっはは、お恥ずかしい」男は背広のポケットから財布を取り出し、伝票を逃げそうな魚を素手で捕まえるよう、館山に支払いを頼んだ。

「こちらの店長さんですか?」男は立ち上がって、すぐに店長に問いかける。どうして私が店長だと思ったのかは、理解に苦しむ。

「はい、私が店長ですが」前置きの重さは、この後の発言が僕に降りかかる面倒な関係性と比例する。

「……今日、うちの家内がこちらからお米を買ったと思うのですが、覚えていますか?」

「今日のことですから、覚えています」

「申し訳ありません、二度もご迷惑をおかけしてしまって」よく頭を下げる人たち。階級社会でない現代で頭の上げ下げは単に挨拶に毛の生えた一生を左右する、噂が広まりもしない、謝罪の一動作に成り果てた。

「迷惑は何も被ってはいません、とあなたの奥さんにはそうお伝えしたはずですが、真意は伝わっていなかったようですね」

「好意に甘えてしまったことは、恥じるべきです」

「頭を上げてください。それではあなたも私も話しにくい」

 男は申し訳なさそう、皺を寄せた顔が皿から昇る。また貴重な時間が割かれてしまう。

「家内には内緒で、ここに来たことは知りません」

「おつりです」国見が会話の隙を狙い、レシートと小銭を手渡す。

「同級生と食事してくる、と嘘をつきました、あいつに知れたら、怒られるのが目に見えています。私のせいで、息子がアレルギーを持った体で生まれてきた、家内はそう思っていて、いまだに家では居場所がない状態で……」

「前置きは結構です、本題にはいってくれますと、私も仕事に取り掛かれます」

「これは、すいません」男は用件をかいつまんで話した。

 相手を敬う言葉尻が目立つので、要約するとこうのようになる。

 息子の学校での立場が小麦を受け付けない主食の体質によって少数派に変更、そこからいじめに発展を遂げた。現実社会を投影したクラス内は階級制が敷かれ、親の所得に応じた四層に分かれる。最下層のさらに下にアレルギーの生徒が位置づけられている、と言うのだ。階層の分類は、車の台数、戸建かマンションか、髪の毛の質や色の白さ、瞳の色、持ち物、服のセンス、歌唱力、運動神経に成績、塾の全国テストの順位などなど。