「店長、豆腐はそのまま提供しますか?薬味とか味付けとかは、どうします?」大豆を潰し終え、大判の布で大豆を搾る。
「炒め物、豆腐とおからで作る一品に、物足りないお客へはナンをつける」
「はい、あのう、私、ナンを焼きます」
「できるの?結構難しいんだから、焼き加減。焦がしたらお客を待たせることになる」
「わかってますよ」沸騰したお湯に剥いたジャガイモを入れる小川が胸を叩く、安心して任せろ、という意味だろうか。
ここで館山が折れた。後輩に教えることも仕事であると確か過去に彼女に告げていた店長の教訓を覚えているはずだ。「仕方ないな、いいですか、店長」
「試してみなくては、成功か失敗かは判断できない」
「ほうら、店長だってそういってくれているんですから。じゃあ、先輩は表のレジをお願いします」
「あんたみたいな脂肪が欲しいんじゃないのさ」ぎゅっと館山が小川のわき腹をつまんだ。
「私だって別に太っているつもりはありません。先輩が痩せすぎなんです!」
「朝からギャンギャン騒がないの。もう」館山は息を吐いてから店長に尋ねた。「あの、おからはどうします?」
「うん。まだ考えていない」
「行き当たりばったりですね、店長」背後、気分のいい小川が言う。
「待つ時間、寝かせる時間も大切だ。けれども、考えた後はやはり行動。それが結果を生み出す。良くも悪くも」
「学校の授業を聞いてるみたい」
「あんたまた、夜中までテレビ見てたんでしょう」ほんわりと湯気の立つおからがバットに移される。
「正確には、ネットです」
「同じ。女で車のレースが趣味なんて信じられない」
「先輩だって車の免許を持っていますよね、それとおんなじことです」
「運転を楽しいと感じたことはないわね。移動手段だもん」
「たまらない爽快感を、理解できないかな」
「命が代償でも?」
「ラリーは結構そういう人はいますけど、サーキットを走るカテゴリーでは安全性はかなり向上しています。まあ、死なないとは言い切れません。でも、車両の開発既定は衝撃を受けてもドライバーが守られるボディの基準をクリアして、レースで走る」小川はランチ用のナンをこね始めた。鍋を離れてタイマーに火の番を任せたのだ。