コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-2

「考えておきます、メニューはまだ決めかねている段階ですので」

「良かった。私、大豆を食べられなくて」小麦を使用した店ならば、いくらでも営業している。この人の発言はやはりわかりかねる。

「そうですか。それでは」

「大豆を使ってはいけない」声が振動。店長が店のドアに手をかける前に、声が発する。異質な印象に、店長は機敏に彼女を顧みた。「大豆は悪魔、主食のような小麦は安らぎと安心を与えてくれる天使。いいですか、大豆を使ってはいけない。いいえ、使うな。使用を禁ずる」なまめかしさに黒が混じった魔女のような声である。外面との温度差がそういった印象に負荷を与えた、狙いを理解した接触だろうか。フィジカルコンタクトに備えて、足元をそっと確認する店長。格闘の経験はないが、体格差でならば、こちらに分がある。直線的な攻撃、最初の一撃をかわし、路地に逃げ込む、すばやく想像、トレース、浸透させて、深呼吸。相手は、不適に笑う。数十秒の沈黙。

 身構えた対応は不要に終わった、女性は光のない瞳を投げかけて、空間をあけて離れた、徐々に速度を上げて、角を曲がる頃にはスキップに、ぴょんぴょん跳ねてもいた。脅し。しかし、誰からだろうか、店長は近隣の店や、先々週の夫婦を思い浮かべて、その可能性を完全に否定した。

 店に入り、一連の準備。まだ、思考は女性の言葉を引きずっている。大豆を嫌うのは、競合する小麦。白米ではない。だけれど、うちの店にやってくる理由がとても曖昧に思う、他の店にも警告を触れまわっているのかもしれない。やはり、僕や店の誰か、あるいは店そのものを対象にした警告と捉えるべき。

 それでもメニュー変えない。反発を見せてくれたのだから、需要は見込める。ただし、従業員の判断も仰ぐべき、命の危険は厨房の僕より外で対応する彼女たち。彼女たちが大豆のランチを断った場合の代替メニューも作れる準備をしなくては、忙しい。

 今日に限って、厨房の二人はそろって時間通りに出勤した。

「店長、脅迫ですよ、脅迫、これ見てください」手渡された紙、ノートの切れ端のようだ、横線が引かれた用紙にボールペンの字。

 "大豆は毒、害を及ぼす食品、食べるな、食べさせるな"

「どうやって渡されたの?」

「ポケットに入っていたんです。手袋を取り出すときに、こう手を入れたら、見つけて。多分地下鉄の中でだと思います」小川安佐は興奮気味に話す、隣の一つ頭が抜きん出た館山リルカは、いつもならすかさず小川の意見に訂正や修正を加えるのに、大人しくうつむき加減だ。