「館山さん、顔色がよくないね」
「先輩にも忠告ですよ」小川がもう一枚の紙を見せた、こちらはコピー用紙のようだ。「背中に張られたのを私が見つけて、かなり悪質ないたずら」こちらは、筆ペンで書かれた動きのある文字。
"大豆の摂取は、進んで体を痛める不健康に近づくための食物。
摂るな、採って捨てろ。"
店の従業員に接触があったのは、不特定多数の大豆を取り扱う店を狙った犯行とは思えない。明らかにこの店がターゲットである。大豆の不使用をこの店に求めるのは、何かしらの関係性が我々にあるはず。
「開店を遅らせる」店長は不安げに見詰める二人の従業員に決断の早さによって不安定な足元をからとりあえず救い出す。もろく崩れやすいのは外面的な強さを持つ館山のために。
「ビラに屈するのは私は反対、断固反対です」小川の抗議。
「営業を中止するとまでは言ってないよ。様子を窺うのさ。それに、店の前で怪しい人にビラと似たようなことを言われたしね」
「店長もですか。これはいよいよ警察を呼ばなきゃですよ」
「なんだか、うれしそう」
「ハッ、何を言って。緊急事態ですよ、今は。楽しいはずがないじゃなないですか」
「そうかな。誰もいない建物ではしゃいでいるのって面白いよね?」店長は話題を変えて、小川に問いかける。
「はい、いつもと同じ空間なんだけれど、暗さと人気のなさがもうたまらなく自由を感じるって、店長何を言わせるんです、そうじゃなくって、大豆ですよ、大豆の禁止。もう、先輩もしっかりしてくださいよ。大丈夫ですって、お遊びの警告ですよ、きっと」
「……ああ、何、なんか言った今?」
「もう。大丈夫ってきいたんです」
「ごめん、ちょっと考え事。ああ、着替えないと」
「店長、私たち着替えてきます」
「うん」
二人と入れ替わりにホールの国見蘭が出勤する。こちらもいつもより表情に余裕がなく、ドアの開閉も乱暴に体を店内に流し込むようにすり抜けて入ってきた。挨拶を交わして、彼女が言う。