コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-6

 各自の首がわずかに縦に動いた。

 厨房の三人はランチの調理に取り掛かる。大豆は水でふやかしたものを使用。大に水を張って火にかける、加減は固めと、小川に指示を与え、タイマーの五分前に固さのチェックを頼んだ。ナンは先週作ったので別の料理を思案していた。パスタはどうだろうか、小麦粉から作るには時間が足りないか、時刻は十時半である。以前に、大量に購入していたパスタがまだ残っていただろうか、ディナーに使う分をよけて、足りるか、店主は倉庫に駆け込む。両側のスチールラック、右側の一番下のダンボールを引き出す。中を開けると、パスタだ。試供品でもらった、新しく取引を持ちかけた業者の品である。これを使おう。パスタはのびてしまうのでは、という懸念は、ナポリタンとういメニューで払拭されるのだ。これで麺が延びても好都合という算段。

 残りは、パスタの付け合せ。冷蔵庫を開けてにらめっこ。館山に麺をゆでるように頼む。

 豚肉のミンチが残っていた。使える。小麦から作る生地は肉と野菜を包む程度なら、間に合う。よし。もう一品の副菜は二人に作ってもらうとしよう。競争心は極力煽らずに料理は作って欲しい、これは僕の願いである。あくせく働いたからといって、誰かを負かしてでもおいしさを追求する人物にあまり行為をもてない店主である。蹴落とす人物の顔は鮮明に覚えている。あざとさが残る彼らの料理はいくら味が抜群でおいしくても僕は好意的な評価を与えられないままだ。人柄ともいえない、上手く表現するのは難しい。ただ、見えてしまった内面が料理に投影されているのはゆるぎない事実。あくまでも、見せないでいられる保証がない僕は、そういった気配を消し去り、料理を作る。料理が内面の心境に左右される、とまでは言い切らないが、少なくとも影響は及ぼす。

 生地を練る。卵を加えて生地を寝かす。釜を温めて室温を上げ、醗酵を促す。あいた手は、香味野菜を細かく切り、豚肉と混ぜ合わせる、チーズも忘れずに。それらをフライパンで火を通す。味付けは塩と胡椒に、缶詰のトマトも加え、水分が飛ぶまで煮詰めたら、火から下す。

 二人はせっせと副菜に取り掛かる。大豆のアラームが鳴った。手が空いた僕が固さを確かめる、小川には手を広げて合図を送った。彼女は、ナスを油から上げていたところで、はにかんで手が離せない自分を主張する。釜の近くでは、館山の包丁からまな板に響く音が聞こえる。固めの野菜を切っているのだろう。