コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-2

「どちらも同程度出ています、どちらにしますか?」店主は気づいていない振りで応える。

「小麦のほうを一つ」開きかけた口が閉じたのを店主は見逃さずに捉えた。視線がこちらの右側に動いたのである。背後の出窓に反射して列の人間に誰かを見つけたような驚き。

「はい、五百円です」快活に国見が言う。女性は黄色の財布から千円札を渡し、おつりを受け取る。女性がおつりを受け取る際に店主は目が合う。片側の頬が微妙に動いて膨らんだ頬の下はギリギリとかみ締めている。しかし、何事もなく、女性はランチを購入して列を離れた。店主は女性の行方を何度か接客の合間に目で追ったが、その都度、国見が視界に侵入を果たす。駅前通りにぶつかる角で女性は姿を消した。

 ランチの営業は通常より一時間遅くスタートし、終了の三十分前、午後一時半に多めに作ったランチは完売した。それでも、手元に渡らないお客が数十人ほど列に並び、不満げな顔を見送る。初めて行列を知って並んだのか、それとも事情により並ぶ時間に遅れてしまったのか、ランチを獲得できる期待と失う期待の両方を買い損ねたお客の心理が不思議でならない。買えない場合の想像を怠っているように、僕には思える。

「何にも起きない、いたずらにしては手が込んでた」厨房に小川が腕を組んで思案のポーズ、首が十度ほど傾く「うーん、警戒を強めた私たちに気がついたとか、もしかして盗聴器とか仕掛けられているんじゃ、いいや、それだったら、対策の裏をかいて作戦を練り直すよね」

「やっぱり思い過ごしなんだって」サロンを巻きなおす館山が、晴れ晴れとした表情で言うと、軽やかにシンクで鍋を洗う。

「先輩、怖がっていたくせに」

「何、なんか文句あるの」

「圧力反対」万歳、釜の前に立つ小川は白旗を上げているようにも見える。サロンを振る姿は救助にはほど遠い姿。

「店長は、どう思います?」レジに立つ国見はまだ不安を拭いきれずにいる。

「さあ、どうだろうか。大豆だけを売るスタイルに怒りをもっていたのかもしれない」店主は厨房に入る。小川がくしゃみを堪えた、内部に響くような破裂音を奏でる。コックコートのまま出入りをしていた影響。

「そうか、今日は二つでしたもんね。選ばせる、小麦に力を入れたいため、ああ、なるほどね。わかりましたよ」

「また、変な思い付きでしょう」

「先輩には教えません」小川は舌を出す。