「誕生日のケーキは困りますね」
「どうして誕生日にケーキが食べられるようになったんだろうか。起源を考えたことはないの?」店主は小川に聞き返す。
「想像するに私の独断と偏見ですけど、特別な日だから、一番の贅沢を表現したかった、それが子供への祝福、なんていったらいいのか、愛情の証だったんですかね。よくわかりません。ああ、もう一つ。誕生日って、無事に一年生きた証を表したかったんでしょうよ、でしょうよってすいません。そう、あんまり栄養状態がよくなくて、死んじゃう子が多かった、生き残った子供は喜ばれて、愛された」
「妥当な意見だ、僕の見解とほとんど一緒」
「本当ですかぁ。いやあ、これは私にも店長の考えに一歩近づいて、さらにお近づきになるような……、最後の方は、何でもありません、口が滑った、いいえ、語弊です。間違いですから、聞き流してください。そろそろ、先輩が帰ってくる頃ですね」
無言が支配。
「ナポリタンご馳走様です、おいしかったです」
「作ったのは僕じゃないよ」
「店長の味ですよ」
「まあ、教えたのは僕だけど」
「店長、本当に食べなくて体が良く持ちますね。省エネっていってもほどがあります」
「食べ過ぎないことと体の使い方で、かなりエネルギー消費は節約できるよ」
「あのう、一つプライベートな質問とかをしてもよろしいですか?」
「応える義務はないよ。それで仕事が円滑に稼動したとしても、相手のことを知りすぎているのは、近い場所で働くには負担が大きい。顔をあわせるし、相手の内情を我がことのように、同調し気分の浮き沈みまで似通っていては、困る」
「結婚されているのとかでも、聞いちゃいけませんか?」
「聞いてどうするの?」
「えっとそれは、結婚生活の秘訣などを聞いてみようかと……」
「苦しいね。人と付き合う秘訣を聞かないのに結婚になると聞くんだね。契約を結ぶからそれとも子供が生まれるかもしれないから?」
「だって大事ですよ、結婚ですよ。大イベント、一大事。女性とっては華やかな晴れの舞台ですもん。失敗はごめんです」
「一度目の結婚では大々的にパーティーを開催、二度目はひっそりと地味に親族だけで、というのは、結婚における通過儀礼ではないのさ、晴れの舞台の披露宴や結婚式は。人生の経験でどうしても通過しておきたい出来事なんだよ、初めてのことを埋めておきたいのだろう」
「聞いた私がいけませんでした、すいません」
「謝ることではないよ。僕の考えを述べたまでだし、小川さんが真に受けることはない。どうしてもプライベートな質問をしたいのなら、それらの疑問をまずは解消すべきだろうね。聞いて応えを求めるのは、場の空気を換えている風ではあるけれど、応えない権利を侵害しているからね」
「はい、以後気をつけます。そして、先輩が帰ってきたので、休憩に入ります」
「いってらっしゃい」