コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?5-1

 午後の二時。室内の温度設定を一度下げる。ホールの人気のなさは、家具の老練な佇まいがカバー。既に傾きかける西日がビルの隙間を通って出窓と、ホールに放たれていた。

「外は物騒ですね」休憩から戻ってきた館山は、彼女の腕を磨く食材を山と買い込んだようだ。すべて自腹である。仕込みの時間を今日は余分に取れる、彼女の予測は正しい。彼女の休憩中に仕込みの大部分は終えていたので、時間的な余裕はたっぷり残る。始動時間が遅かったわりに、午後に余裕が生まれたおかしな営業日である。

 頼んだ食材が届いた。業者に無理を言って届けさせたのではない、もしできることならば今日中それもディナー前に、とは電話で伝えていた。

 段ボールの箱がカウンターにのる。

「毎度様です。こちらにサインを」防寒着としての機能を排除した帽子をかぶる若い男が高い声でサインを求める。ランチが終わった直後に連絡を入れたから、一時間ほどで配達された。

「無理を言って申し訳ありません」店主は、ボールペンを返し、印字された領収書を受け取る。相手は、営業用の取り繕う笑顔が不得意で、いつも感情が表に出やすい。

「他の店のついでですよ、おたくだけの注文に車を走らせたりはしませんよ。こんなこといったらまた怒られるな」

「いいえ、注文は前日が約束です」

「まあ、月に一度とか何ヶ月かに一回なら、会社に戻って商品を積んで戻るくらい、わけはないんですよ。ただね、毎回、足りない足りないって追加の注文ばっかり、それもおんなじ商品をこれでもかって、ダメだ、ダメ。今のは聞かなかったことに」業者の男は、首を伸ばして、厨房をのぞいた。「あの、お水を一杯もらえますか?」

「どうぞ」

「わたしがやります」話を聞いていた館山がすばやく、冷蔵庫に入っていた水入りの容器を取り出して、グラスに注ぐ。

「なんだか、いい匂いがしますね。どうも」一気に喉を鳴らす業者は、グラスを館山に手渡す。彼は他に目的があるようだった。

「空腹ならば、何か作りましょうか。ナポリタンならば、具材はありませんけれど、作れますよ」店主は言う。

「いやあ、催促したみたいで悪いですね」後頭部を掻く仕草で業者の男は、遠慮がちにずうずうしさを正当化。

 カウンターに業者の男を座らせて、ピーマン、ウインナー抜きのナポリタンを振る舞った。