コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?5-4

「落ち着いてますね」

「そうかな。いつもだと思うけど」

「もう少し、慌ててくれても良かったんですよね、私としては……」蚊の鳴くような声で国見が言う。

「何か言ったかい?」

「いいえ。何でもありません。私がきっちり弁解します」

「お願いするよ。僕ちょっと、ここで休ませてもらう。煙草を吸いたいんでね」倉庫を出かけた国見が足を止める。

「タバコ、吸われるんですか?」

「言ってなかったかな」

「私の前では一度も吸っていません。二人は知ってます?」

「どうだろうか、聞かれたら答えていると思うけど」

「知らないことばかりです」側面、彼女は首が前に傾斜。

 店主は、タバコに火をつけた。明り取りの窓、開かずの、いいや開けられずの窓を押し開ける。一気に空気が待ち望んだ空間を目指した流入を果たす。咥えたタバコの先が赤く腫れる。

「店で吸ったのは、多分今日が初だろうね」

「残業する予定があるなら、私も待ちます」

「いいや、たまには営業時間に合わせて帰ってみるよ。変化は必要だからね」

「戻ります」

 タバコの灰が延びる。気をそいだので、誰かが吸ったみたいだ。悪くない、連想。

 彼女はおびえていた、気遣って、優しい言葉を投げ掛け、手でも握ってあげるべきだったろうか。

 店長という立場を捨てて?

 捨てるというのは大げさだが、小川の目撃のように勘違いはされるか。

 摩擦熱みたいにエネルギー変換が必要かもしれないな、店主は煙を吸い込む。ちらつく雪の形状は肥大。積もりそうな降り方である。

 店主は久しぶりに、端末を使い、電話をかけた。

「もしもし」

「はい」

「覚えていますか?」

「ええ、店長さん」

「僕の番号、教えましたか?」

「いいえ、声で判断しました。用件をどうぞ」

「従業員が数十分前に背中を切られた、ナイフやカッターのような刃物だと思われます。また、今日の早朝に店の従業員、全員に脅迫文が送られ、私は直接脅迫を受けました。警察はこれで、動いてくれますかね?」風が強まり、荒くれた雪がサッシに溜まる。

「上司に窺ってみます。おそらく最寄りの警察署に届けても、取り合ってはもらえない案件でしょう」

「ですよね」

「折り返し電話を」

「ああ、でも、仕事中で出られないかもしれませんよ」

「こちらが動けるのであれば、連絡をします。着信履歴が残っていれば、そう判断してください。要望に応えられないときは、連絡がないことで判断を、そうですね一時間以内に」

 灰にまみれた携帯灰皿の吸殻と対面した。端末を切って、時計代わりに逆戻り。

 店主は、最後に大きく吸って今生の別れを示す。しかし、吐いた息は白くて、吸い込んだ煙の可視化による爽快な気分は半減された。