コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-2

「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」間に挟んだ子供を見つめる母親、子供は高い声で物珍しいメニュー表にか細い歓声を上げている、迷惑という意識は備わっているらしい。国見は両親がむき出した敵意と攻撃性の低下を読み取る、引きつった口元は適度な力加減で結ばれ、声かけの最後には左右に引かれた。

 メニューに加わった焼きカレーが追加で注文された。ホールから戻る小川が伝票を手に、厨房に軽々姿を見せる。彼女はホールの業務も受け持つ。手のひらを見せて聞き取った注文の合図を送る。

 店主は鍋に移したルーに火をかける。オーブンに入れるのは仕上げの直前、上に乗せるチーズの焦げをオーブンの熱で作り上げたいのだ。鍋が焦げ付かないようレードルを細かく動かす。背後で声、空間を切り裂くみたいだった。BGMが仕込み時間以来の対面。ストリングスなのか、インストゥルメンタルか、とにかく楽器の音色、振動が空間を伝って、音として認識させる。火を止めて、店主は振り返り、音の発信源を眺める。お客の入りに応じてカウンターに積みあがる皿が減り、両親の首から上が浮きあがっていた。

「少しぐらいなら食べられるだろう、それに調理器具を小麦とそれ以外とを分けて作ってくれるレストランがあると思うのか?」

「あるわ、そんな店、いくらでもね。調べたんだから。あなたは、外見ばっかりで知らないことが多すぎます」

「だったらその店に行けばよかっただろう」

「今更どの面下げて店に顔を出すのよ。お米を要求して、今度は何?食事もするのかって、思われる」

「ここだってそうだろう。見られているぞ」父親は背もたれを掴み、背後を窺った。捕食者の口を魚群が避けるように、お客の視線は一斉にはずされる。「見世物じゃなないって言うのに、気分悪い」

「帰ろうっていっても、食事はここで済ませますから。いいね?」母親は念を押す。

「食事を作るのが億劫になったのか?」

「そんなわけないでしょう。この子だって、たまには外食を体験させてあげたいと思ったの。変な勘ぐりはよして」母親はそっぽを向く。

「もう、なくなりそうか?」

「……明日一杯ってところ」

「早いな」

「だって、食べ盛りだもん。おにぎりも持たせてるし」

「手に入らないんだな?」

「ええ」

 手が上がる、父親が国見を呼び寄せて注文する。お客が、一組、また一組帰り支度を始め、コートを羽織って、店を出る。テーブルが空き、食器が片付けられ、空間が広がる。さらに料理を盛り付けて、国見に手渡す度に人が消えていた。カウンターの三人が最後の一組。小川が、「今日は時間が経つのが早かった」と口にしたことで店主は時計で時間を確かめた。