コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-3

「すいません」カウンター越し、父親が店主に問いかけてきた。

「はい」

 彼は立ち上がる。「お米は本当にありませんか、貸し倉庫のような場所に保管しているのではないですか?」

「いいえ、店の裏手のことをおっしゃっているのなら、見当違いです。明日の朝に回収されるゴミの回収箱しか置いていません」

「そうですかぁ」父親は力なく、空気が抜けた風船のごとく、座る。かと思えば、機敏に目線の高さを合わせる。「実を言うと、勤め先に匿名の文書が届いて、息子の健康状態に関する克明な病状を同僚や上司の知ることとなりました。表向き、会社は一般的な企業となんら変わりがないように見えるのですが、採用時点で各家庭の資産や経済状況、家族構成、会社が独自に設けた基準に沿って内定に至ります。子供の不健康が発覚すると、おかしな話ですが、出世は望めない」以前の告白で同様の内容を言っていたはずであるが、どうやら母親に間接的に聞かせるために、彼はこの場所を選んだのだ、と店主は思う。子供の声は聞こえない、気配はかすかにナイフの摩擦音でそれが感じ取れる。

「何言ってるの?会社が子供の病気を理由に、差別を許すの?」

「僕だって、いいたいことはあるよ。でもこれが現実だ。いくら泣いたって、訴えようと、入社の説明会で何度も忠告を受けた」

「馬鹿らしい」吐き捨てる母親。「小麦論者と同等よ、同列!」

「どうか、落ち着いてください」店主は口論の温度をやや弱める合いの手を入れた。

「信じられない、食べたくても食べられないこの子の気持ちに少しでも成り代わって考えたの?」仮面を変えるように子供に向けた母親の笑みは、季節外れの真夏日。頼んでもいない、押し付けがましい一方的な慈愛。人の性質は行動に移る前後の比較で如実に明らかになるようだ、店主は母親の奥に隠れる満たされない想いを憂う。しかし、感情は寄り添わない。他人事、距離を保ったから見えたのだ、近づけば本体の全容は確認できない。

 着地点の見えにくい会話に、従業員はそれぞれの持ち場で事の成り行きを見守る。残された伝票には、すべてチェックが施してある。テーブルに注文の品が並んでいるということだ。店主はコンロに戻り、揚げ油をペーパーで濾す。規則的に動くナイフは止まっていた。油はかろうじての透明度、明日も使える。酸化に備えて、耐熱性の瓶へ。蓋を閉めて、コンロから離す。

「ごちそうさま」子供が言った。

「お前、馬鹿!ピザの残り食べたのか?」

「うん」