コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-4

「吐き出しなさい!すいません、お手洗いを!」母親は手を挙げる。

「大丈夫、いつも食べてるから、平気」

「息もできなくなって、死んでしまうの。全部出しなさい」

「もう、遅いよ」

「救急病院ね、胃洗浄だわ」

「慌てないで。僕は大丈夫。ずっと前からちょっとずつ、食べていたんだ」

「許しませんよ」母親の平手が飛ぶ。「あなただけの体ではありません。私を一人にするつもり?どんな思いで、産んだと思っているの?大変だったんだから」

「もう言ってもいいかなって、僕、思ったんだ」子供はぽつりと口を開いた。「二人とも、パパを責めるママもだけど、自分のことが大事なんだよね。それが悪いなんていってない。やっぱり、自分が一番だからって言うのは、僕にだってそうだ。だから、食べられる物を探した。たくさん食べたあとにいつも具合が悪くなる、だったら、量を減らしたらどうかって思った。お米が高い、クラスのみんなが言ってる。病気だから、パンは食べられない、いくら言っても聞いてくれない。何にも考えていないんだから、仕方ないよね。それでも折り合いをつけなくちゃだから。でも、うちではもうお米が買えない。何か方法は無いのかって、考えて、本を読んだ。ほとんど漢字でわからなかったけど、少しずつ食べると治るって方法を見つけて、パンを去年から食べてるよ。最初はひとかけら、消しゴムのカスみたいなやつでも、体が赤くなった。けど、何度目かではもう大丈夫で、もうひとかけら増やして、今日もこっそり食べたよ。台所のクロワッサン」

「一つ丸々食べたの?バターも入っているのよ、乳製品もダメじゃない。この前は自分で食べたのか、なんてこと」

「牛乳は飲めないよ。一口だけなら、おなかはゴロゴロ言わないし、学校では残していい決まりだもん」

「いつから、そんな、もう、はあ、力が抜けたわ」母親は言葉どおりに、席に腰を下す。

「食べれるのか、パンを食べれるのか?」

「今日はもうおなか一杯で食べれない。明日の朝になら食べられる」

「本当だな?」

「嘘をついたらいけない、パパが言っていたんだ。忘れたの?」

「ああ、そうだった、覚えてる。覚えているよ。うん……」

 過度な高まりをみせた夫婦と努めて冷静な子供は、営業時間終了ちょうどに席を空けた。