「先客は私。順番すら守れない、やっぱりお嬢様っていうのは、決まって傲慢で、自己中心的でなにかにつけて自分を優先使用する。あーあ、お金持ちの家に生まれても、ああ、はなりたくないね。だって、お金持ちでも立派な人格の仕事相手と交流があるもの私は。いだやね、自分の力では何一つ、これっぽちも、社会には響かない」
「口が過ぎるんじゃない」
「言わせたのそっち。私がまだ話している。場所を譲りなさい」
「イヤ」
「はああ。面倒だな」彼女は頭を掻く。片方の手は腰に当てる。「店長さんが即決してくれたら、無駄な時間に巻き込まれずに済んだのに」
表のトラックが低音を奏でて微振動に上下動、店の前を通過した。
「荷物は?」有美野が荷物が置かれていそうなテーブルを見渡す。
「追いかけなくてよろしいですか、長ーいスカートをたくし上げておとぎ話のみたいに必死で走らないと、王子様が逃げてしまいますよ」
「店長さん、サインはなさったの?」
「受け取らない権利を行使しました」
「あなた、冗談言ってる?お米が使えるのですよ、高価なお米が。お客は飛びつくに決まってる、繁盛は間違いない」
「それについては以前に答えました。二度も言い直しはしない」
「小麦が手に入るから、米が邪魔になったんですよねー、店長さん」
「初耳ですよ、店長さん」有美野が店主の袖を掴んだ。小麦論者の彼女が、すばやく掴んだ腕を切り離す。いつの間に戸口から距離を詰めたのか、店主は足元に体重を乗せて床の軋みを確認する、近距離の視覚が音声の重要度を下げたのだろうか。
互いに親愛なる穀物を店主に勧める構図が店内で展開。
店主は状況把握に情報を抑える。
二人の女性の口論。
穀物の申し出。
譲らない二人。
僕との意見の相違。
二度目の訪問。
それから、早朝。
「強制には応じない構えを変えるつもりはないです」店主は言う。
「無理をなさらないで」有美野の声は、丸め込む販売員の購入前の一押し。「小麦は単体でその体をなしている、だが、お米は他の料理と食べ合わせるような食物」
「要するに一人では役不足。死刑宣告を述べているのが、わかっているのかしら」小麦論者の彼女は顎を上げる。勝ち誇るきつくしまった唇。