コンテナガレージ

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抑え方と取られ方 4-3

「ここ最近の天気は春を思い出させますなあ」入り口にくぐもった男の声。マスクをはめた豊かな髪の男が両腕に茶色く粗雑な紙袋を抱える。とうもろこしを勧めた業者である。まったく偶然というものがこの世にはあるのだ、と店主は、年季の入った黒ずんだ天井を仰ぐ。店内は混沌とそしてランチの仕込みはどんどんと引き伸ばされる。

「部外者は立ち入り禁止」小麦論者が言う。

「時間を守りなさい。開店時間まで外で待てないのかしら」有美野のあきれた物言い。

「お嬢さん方、顔に似合わず口調が厳しいですよ。おしとやかにされたほうが、男受けは大変によろしい」

「セクハラ」

「仕事仲間だったらとっくに訴えています」

 男は肩をすくめたようだ、左右の包みが頭頂部の位置まで引きあがって、降下。

「何か御用ですか?」店主が尋ねる。

「新種のとうもろこしが手に入りましてね、これまでの味とはテイストが異なるんです。どうか試しに使ってみてください」

「頂いた分はまだ開けてもいません」

「ご自由にとお伝えしたはずです。遠慮はいりません、惜しみなく使ってくだされば、また私がお届けします」

「重複になりますが、金銭授受の発生しない取引は商品に使えません。前回の商品は、試供品を私がランチで使用したことに鑑み、受け取ったまで。今回はいただけません」

「抜群に滑らかさ増した味を一度味わってください」ホールのテーブルに紙袋が音をたてて置かれた。「品種改良ですよ。とうもろこし特有の甘さが食材とのマッチングを拒んだのは、過去のこと。この品種は、比較的味の薄い性質と小ぶりな粒を作る性質とを掛け合わせて完成した。粉末状のとうもろこしを水で溶いて、ちょうど甘みを感じる程度。どうです、試してみる気になりましたか?」うっすらと白いひげを蓄えた男は自信たっぷりだ、先日の低姿勢と対象的な威圧を感じる。