コンテナガレージ

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抑え方と取られ方 4-5

 店主に言いかける彼女よりコンマ数秒早く男がしゃべる。「多糖類を単糖類へ変える酵素がこのとうもろこしから発見された。複雑な分子構造の多糖類を吸収の容易い単糖類に変化、体内への吸収に寄与。さらに、副次的な恩恵にもあずかった。たんぱく質の吸収を高める効果がこれまで性質には見ることのなかったが、この品種は効果が現れていたのです。これは、食物性のたんぱく質である大豆にも白米にも引けをとらない値」

「牛乳をかけて食べるフレークだって、一時のブームで終わったじゃないの。小麦は違う。既に家庭の戸棚には必ず小麦粉が入っているわ」小麦論者の彼女は小麦の良さと現状を語る。

「あなたの理論で言えば、小麦の常備は家庭必須の食料。だけど、小麦を毎日見ることってあるのかしら」有美野は言う。

 店主は、反論を述べる有美野を前を通って、厨房に入った。タイムカードの時計を見る。一時間もかれこれ小麦論者の登場から時間が経っていた。頭の隅で走らせたランチメニューの創作は、最終的な混乱とメニューの両方を解決に導く可能性を示唆。それは店主も思いついていた。しかしその選択が、店の形態を変えざるを得ない可能性もあるので、決断には至らなかった。どうしたものだろうか、店主は悩む。

 ホールでは、三人が言い合い。意見のまとまりを期待する?まとまりは一つの意見の突き抜け。手を繋いでみんな仲良くとは、土台無理な話。

「おはようございます」館山が出勤。ホールの三名へ上がった眉と開いた口の表情で軽く首を縦に振る。小走りで、カウンター前を走り、店主に接近した。素肌の館山が顔を近づけて質問する。

「あの人たち、なんなのです?」

「業者に愛好家に押し売り」

「こんなに早くに業者が来るのはめずらしいですし、愛好家と押し売りって……」いつもの情景が異なる時に人の価値は使用される。それが対応力。

「副菜を二種類考えてくれない?」

「はい、それは作りますけど、あの人たちは放っておいても?」

「押し売りの人は時間になれば、出て行く。業者は業務の邪魔はしない。もう一人は予測不能。だけど、一人になったら、言い争いはできないから。お客には迷惑がかからない。それにランチはテイクアウト。店内で彼女が話しかけても、お客には届かない」

「店長、悠長に解説してますけど、もう殴りあう寸前のような雰囲気ですよ」

「選択肢のロープは一本だけか。手に入れた糸に溺れなきゃいいけど……」