コンテナガレージ

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抑え方と取られ方 4-6

「は?店長、今なんて?」

「独り言。きかなかったことに」店長は、サロンを締め直す。「着替えて、準備を始めて」

「は、はあ」腑に落ちない店長の態度に驚いてから、伝言を思い出す。「ああ、あとですね。安佐から伝言で病院でウィルスの減少が検査で確認できたようで、二日後の復帰許可を頂いたそうです」

「そう、じゃあ、いいじゃない。二日後で」

「では、そう伝えます」着替えに国見が奥のロッカーへ、店主は釜に火を入れる。

 すると、有美野がカウンターの天板をドンと叩く。テーブルに恨みがあるように思えない。発音による感情の高まり、または主に怒りに類する感情。この場合は僕が対象者だろう、と店主は思う。背を向けたまま店主は言葉を返す。

「申し訳ありません、あなたのお名前は、先日自己紹介がなかったので、名前を聞き忘れていた。申し訳ない」店主は、彼女へ言った。しかし、彼女は口ごもる。本名は言えないらしい。素顔と現在の彼女の乖離が彼女の沈黙で証明された。店主は業者の男性に尋ねる。

「とうもろこしの方、お名前はなんとおっしゃるんでしたか?」

「灰賀です」首を伸ばした男がこたえる。マスクをとって話したので、声はよく通る。隣の有美野は覚えていた。名前を聞いたのが数日前であったから、数ヶ月前ならば灰賀と同様、記憶から抹消していたはずだ。

「灰賀さん、今から大豆は手に入りますか。三キロほど欲しいのですが、三十分以内に」

「これまた短時間ですな。理由を聞いても?」灰賀は立ち上がる。彼は有美野の頭一つ分を越えた身長である。比較を設けるとわかりやすい。

「ランチに四種の穀物を使用した料理をお客に提供します。手軽な選択を望んで、価格は五百円に設定。より多く売れた穀物を毎週一日必ずランチメニューに加え、お客に振舞う」

「米や小麦は、勝負なしでも使うでしょう?対決は無意味に思えますが」灰賀は笑う。皺がより、目が消える。視界の端に厨房に入る館山が見えた。