十分を過ぎて、鶏を焼く。ご飯が炊き上がった。慌ただしく厨房に音が交錯する。まるで都市部の交差点。
弱火で火加減を見ながら、ひとまず鶏をしばらく放置、とうもろこし粉で包む中の具材に取り掛かる。
トマトを湯剥き。昨日整形したハンバーグ用のひき肉をバットごと代用。香味野菜と香辛料で味付け。炒めた餡を館山に渡す。彼女はすでにとうもろこしのパンを焼き始めている。こちらは具材が乗っていない状態であるから、提供直前に一度フライパンで表面を焼いて火を入れることが可能。
「店長、外を見てください」首をそらせた館山が外を見つめる後頭部で言う。
人だかり、列は縦の通りにぶつかり、道の対面に列が移動、そして店の前に後続がずらりと並ぶ。通行人は、左右に不思議そうに見やって、通り過ぎる。
「ピザ生地を焼いた方がいいね」
「みたいですね」
「ふう」姿を見なかったホール係の国見が外から帰還する。コートの前面は開いたままであった。「近隣の店舗に了解とってきました。終了時刻と今後の対策を説明、理解は得られたようです。うちのファンがこのあたりには多いので、それに人の賑わいは相乗効果にもつながる、ということだそうで、真向かいのカフェも話は通しました」
「寛大すぎる」
「並んでいるお客には四種類のランチ内容を知らせました。注文で迷う時間はこれで短縮されたと見て間違いありません」国見はコートを脱ぐ。「足りなくなりそうなランチは窓から指示を出します」
館山が訊く。「窓からですか?」
「番号をつけて、足りなくなりそうなランチを指で示す」
「僕が運ぶよ」店主が言う。
「店長、揚げ物がありますよ」
「運ぶ時は具材を油から上げる、運ぶ時間を使って余熱で火を通す」
「二種類が限界だと感じたのって、錯覚だったんですね」館山がしみじみ言う。フライ返しを操り、パンの黄色い生地が返る。
「上限に合わせて行動に移す。決められた時間内にやり通すのなら、計算が働く。遅刻で朝の支度が早まったのもそのため。締め切りに間に合わせて、数日前に仕事に取り組み出すものまた同じ。お客を前にすると、手早く料理を作ろうとするのもそのため。すべて、期限や上限が左右しているのさ」
「そういえば、経済学者が給料の七十パーセントで生活を勧めていましたね」国見が言う。